Duck Baker ダック・ベイカー / When You Wore A Tulip

Hi-Fi-Record2006-08-31

 ガットギターには、夕暮れの響きがある。フィンガリングにしても、カッティングで用いるにしても、リズムの切れ味を表現するのは得手ではない。明瞭な響きを残すスチール弦のギターと比べて、つつましさや、くぐもったニュアンスを表現するのに適している。ガットギターによるチョーキングは、あまり耳にしたくない。


 フィンガー・ピッキングによる奏法の場合は、右手の親指がド、ソ、ド、ソ、と拍子に合わせてルートと5度の音を弾く。この親指のビートが、音楽全体の安定感の基礎になってくる。カントリー・ブルースに端を発した奏法で、マール・トラヴィスチェット・アトキンスを経てひとつの頂点に達した。60年代のフォーク系アーチストがこぞってコピーをした奏法でもある。フォーキー達には、エリザベス・コットンやミシシッピジョン・ハートのギター・プレイがお手本になっていた。
 
 
 チェット・アトキンスをもって完成形にたどり着いたかにみえたフィンガー・ピッキング奏法。ところがこれをまた新たに改良した演奏が登場したのが、70年代だ。
 フィンガー・ピッキングを基礎にして、そこにジャズ的なコード・ワークを織り交ぜてメロディを演奏する、そうした方向に進んだのがジョン・ミラーであり、このダック・ベイカーだ。ベース音を几帳面に4ビートにあわせて弾く古典的な方法を逸脱していて、必ずしもベース音を一定したビートで鳴らすことはない。だからといってジャズ・ギタリストがピックを手にセミアコのギターを用いて、コードのトップノートでメロディを演奏する手法とも違う。やはりフィンガリングを用いたギター奏法とわかる。このあたりの感じが、彼らの独自性だ。
 これとガットギターとの相性がいい。
 
 
 今朝起きたときに、相変わらず時差ボケでいつもよりもちょっと早く目が覚めたのだが、窓から入ってくる空気に秋の気配を感じた。空気が、ほんの少し乾いてきた気がする。
 ガットギターの響きが似合う季節が近づいている。(大江田)
 
 
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