Bing Crosby ビング・クロスビー / That’s What Life Is All Abou

Hi-Fi-Record2006-09-06

 「死の蔵書」(ジョン・ダニング著 宮脇孝雄訳 ハヤカワ文庫)を読み終えた。数年前にさらっと一読した本で、いつか読み返そうと思って本棚にしまっておいたものだ。


 古書店主、読書家、愛好家、そして個人の古書ディーラー。彼ら古本の世界に生きる人たちを巡るミステリー小説だ。
 そう、お察しの通り、ここに登場する店主やディーラーや客の姿を、そのまま中古レコードに置き換えれば、まさにハイファイの日常とよく似た物語として読み換えることもできる。だからいちいちうなずいたり、これはスゴイぞと感嘆したりしながら、読み進んでしまうことになる。


 いかにもレコードなんて在庫していない風のリサイクルショップの片隅に、まとまった量のアルバムを発見したとき。床に膝をついてジャケットをめくり出す僕らの事を、「また病気が始まった」と近くで見ていた友人が笑いながらつぶやいたことがある。アメリカの田舎町での出来事だ。レコードを見つけると、無性にジャケットを繰りたくなる。宝物があるかもしれないと、胸をときめかせるあの気持ち。確かに軽い病気かもしれないけれど。


 「死の蔵書」に登場する古書の魅力に取り憑かれた人物たちもまた、実に愛すべき同病だ。彼らが背負うどうしようもない業の深さが、通奏低音のように同書を貫き響いている。
 と、こう書くといかにも暗い小説のようだけれども、美しく聡明な女性と頑固で壮健な主人公の大人のラヴ・アフェアもちゃんと盛り込まれているし、テンポ良く展開するストーリー、ディティールの精度など、飽きさせない物語である点では一級品だ。なにしろ作家のジョンは、古書店の主人だった一時期を持っている。
 そして最後の最後の一行で明かされる見事な謎解き。
 これには、脱帽した。


 主人公のクリフは、ドライブ中のラジオから流れてくるビング・クロスビーとギャリー・クロスビーのかけあいによる「サムズ・ソング」に耳を止め、これだったら4千回ほど聴いているとつぶやいている。ビング・クロスビーの名前が、主人公の年齢を示唆する。


 ミスター・ビング・クロスビー。時代を映し込んだサウンドが響く本アルバムでも、その往年の洒脱さは健在だ。(大江田)


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