Ruth Welcome ルース・ウェルカム / Zither Magic!
昨晩遅く、タクシーに乗った。
個人タクシーだった。
「○○○○のファミレスまでお願いします」
夜中の呼び出し。打ち合わせ。ふうー。
ふと気が付くと、車内に聴き慣れない音。
ハープのようなギターのような音。
ゆるりとした気品のあるヨーロッパの楽器の音。
いや、この楽器のことをぼくはよく知っているが、
タクシーの中では聴き慣れないだけなのだ。
何故にこの音が鳴っているのだ?
「チターですね、これ」
そう問いかけると、年配の運転手さんはちょっとビックリしたように身じろぎした。
「はあ、そうですか?」
あれ? これじゃ質問と答えが逆だ。
普通はお客さんが「これ何の音ですか?」って訊いて、
向こうが「チターですよ」って答えるだろ。
ちょっと狐につままれた気分になったが、
運転手さんはかまわずに話を続けていた。
「これね、”癒し系”って言うんですか。CDをかけてるんですよ。
いやね、これが何の音かはわかりやしませんが、わたしたちの時代の音楽ですよ。
詳しくはわからないけど、いつかどこかで聴いたような曲が入ってるんですよ」
なるほど、確かにチターに続いて、50年代の名画の主題歌が流れてきた。
「いつもカーステにこういうCDを6枚入れておくんですよ。
それを順にかけていって、最後まで行ったら今日の仕事はオシマイ。
そうしてるんですよ。たまに調子が良けりゃ、2回転目に行ったりしてね」
そう言って、運転手さんは少し笑った。
初乗りを少し超えたところで目的のファミレスに着いた。
真夜中のタクシーでチター。
癒されたかどうかはともかく、そうそうお目(お耳)にかかれるものではない。
嬉しくなって、ファミレスに入ってすぐにクリームソーダを注文した。
今、昨日の不思議な出来事を反芻しながら、ルース・ウェルカムの弾くチターを聴いている。
ぼくはチターの良い聴き方を今まで知らなかったんだな、と思い知っている最中だ。(松永)