Joan Baez ジョーン・バエズ / Joan

Hi-Fi-Record2006-09-20

 ジョーン・バエズは、一時期ボブ・ディランと恋仲だった。
 ボストン大学の出身で学生時代から界隈で活動をしていたこともあり、60年代初頭に彼女は地元ボストンでライヴを行っている。
 そのバエズの元に、ディランが通っていた時期がある。
 二人は恋に落ちた。



 ニューヨークからボストンまでは、車を利用してもほんの数時間のドライヴで、それほど離れた都市ではない。しかし街の性格は大きく違う。テンポの速いビジネスの街ニューヨークに比べて、ボストンはのんびりとした大学街。ぼくにはそう映る。グリニッジ・ヴィレッジに暮らしていたディランの目に、ボストンの街がどんな風に映ったのか、とても興味深く思う。



 プロテスト・ソングを歌いながらもどこかしら屈折していたディランを見ていると、その横で歌うバエズがひどく直情的に見えることがある。プロテスト・ソングの女王云々の枕詞も、あながち的はずれではないと思わされる。
 バエズとディランがお互いをどのように思っていたのか、そして今はどのように思っているか、それは映画「ノー・ディレクション・ホーム」を見れば、おおよその事がわかる。
 二人の気持ちが離れていく。破局は速かった。



 それから数年後のアルバム。
 室内楽的なサロン風のサウンドをバックに、ほんのりと軽く芸術至上主義的な雰囲気の中で、新進SSWの作品を採り上げている。
 デジャヴ。まどろみ。内省。ぼんやりとしたひとり。そんな言葉を思いつく。
 いいかえれば、現実感に乏しいアルバムなのだ。
 そこが好き。


 バエズは、従来から積み重ねてきた自分の立ち位置を動いていない。
 だからだろう、音楽を引き出す制作者側が、彼女の歌唱への情熱に、微妙にプリズムをかけている。
 彼女がそれを好んだのかどうか、判らない。好まなかったような気もする。
 おそらくバエズは、今も昔も素直でストレートな人なのだろう。「ノー・ディレクション・ホーム」を見ていると、改めてそう思う。(大江田)



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