Nina Simone ニーナ・シモン / At The Village Gate

Hi-Fi-Record2006-09-27

 永くクラシック・ピアノを学んできていたのだが、音楽大学に進むことは出来なかった。
 ほんのアルバイトのつもりで弾き語りのジャズを歌い始めたら、それが評判を呼んで、レコーディングのチャンスを得た。
 そうしてデビューしたのが、ニーナ・シモンだ。


 彼女は旧来のジャズの世界の住人達になじまなかった。レコード会社のスタッフ、そして彼女を持ち上げた当初のファンたちとも。
 彼女の立ち位置は、ロックやフォークのファンからの支持を集める方向に、少しずつ動いていった。
 60年代の半ば頃からは、強いビートと共に祝祭的な熱狂と解放を現出するコンサートを頻繁に行うようになり、独自のジャンルとしか言いようの無いジャズとソウルとフォークとロックを一体化した音楽にたどり着いている。先鋭化していった60年代のアフリカン・アメリカンの意識に呼応し、そして併走しながら変貌していった黒人アーチストの一人と言っていいだろう。


 これはまだジャズ期の彼女を映し込んだキャリア初期の作品。
 後々に、そうした方向に彼女が進んでいくことを、予感させる空気をはらんでいる。
 例えば冒頭の「ジャスト・イン・タイム」、そして「ヒー・ワズ・トゥー・グッド・トゥー・ミー」。ともにジャズのスタンダード・ナンバーだ。
 ここでの彼女は、歌詞内容について、客観的な態度を取らない。あたかも自分がドラマの主人公であるかのように、歌う。
 シンガー・ソングライターの感性で、ジャズを歌っているのだ。


 黒人女性フォーク・シンガーのオデッタにも、同様のジャズ・トリオをバックにしたアルバム「Odetta」がある。ボクにはニーナ・シモンの本作と表裏一体のアルバムと映る。


 シンガーの意識のありようが、歌の聞こえ方を変えることがある。それは「弾き語る」という行為がもたらす作用のひとつなのかもしれない。(大江田)


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