Eldon Shamblin エルドン・シャンブリン / Guitar Genius

Hi-Fi-Record2006-10-07

 エルドン・シャンブリンは、1937年から23年間に渡ってウエスタン・スイングの雄、ボブ・ウィルスのバンドに在籍したギタリストだ。
 スチール・ギターを始めとするリード楽器がメロディを取るときにはリズム・バッキングのサイド・ギターに徹し、ひとたび順番が廻ってくるとジャジィなフレーズの見事なソロを弾いた。
 御大のボブから彼の演奏について言葉をかけられたのは、1940年の「Take Me Back To Tulsa」の録音の時で、唯一これだけだったとインタビューで語っている。ビートと共に絶妙にベース音を動かす独特のリズム・バッキングのスタイルは、このときのボブの言葉がきっかけとなったということだ。



 生涯唯一のアルバム「Guitar Genius」。彼のジャジィなフレーズと、独特のバッキングの両方がふんだんに楽しめる。
 たとえば「Stardust」。ヴァイオリンと彼のギター、それにベースとドラムというセット。ギター・ソロから始まり、ヴァイオリンのバッキングに廻り、そしてまたギター・ソロへ。ソロ・プレイでは、単弦やコード弾きのトップ・ノート、またはオクターブ奏法に、テンション・コードの分散弾きを交えつつ、巧みにメロデイを分解し再構築している。これはまったくジャズの技法でもある。演奏に切れ目が無く、適度に饒舌なタッチだ。あふれるものがある。全体としてゆるい気分を醸し出しながら、冗長さがない。
 しっかりと強い音色に、彼の好みが表れている。ゆるぎない意志が込められている音色だ。どっしりとした音楽が構築されているなかに、ときどきに交えるユーモアにとんだフレーズもいい。持ち技の提示が、演奏中の各所でさりげなく行われている。相当に頑固な職人気質の人なのかも知れないし、もしかすると意外と気が短い人かも知れない。



 ふっと気楽なセッション。それでいて、どれもが上質な演奏だ。
 毎日、毎日、数限りなく演奏してきた彼の晩年のとある一日が、そっと切り取られている。気負いもなく等身大に彼のすべてが写っている。
 そういう風に出来ているアルバムだ。
 たまらない気持ちになる。ジャケットを抱きしめたい。(大江田)


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