Daryl Hall And John Oates / No Goodbyes
音楽的人格形成という言葉があるとして話を進める。
その第一次段階は両親の聴いていた音楽や、
テレビやラジオから流れてくる音楽だろう。
やがて、音楽的第二次性徴が訪れる。
その現象の中で大きな割合を占めるのが
兄(姉)が聴いていた音楽だ(オプションとして部活の先輩も含める)。
自分より少し年上のひとが触れて、聴いているもの。
最初はわからなくても、徐々にその年齢に近づくにつれ
何かがしっくり来始める。
それをひらたく日本語で言うと”あこがれ”ということか。
もっと単純に財政面の違いという面もある。
ぼくには2歳上の兄がいて、
音楽を聴き始めたのは、ぼくの方が早かったのだが(ラジオっ子でした)
お年玉の金額などの違いで兄の方が気安くLPレコードを買っていたと思う。
ホール&オーツの「プライベート・アイズ」も兄が買った一枚で、
ぼくも弟(2歳下)も大好きなレコードだった。
当時、何かを取り決めたわけでもないのに、
兄弟の間で不可侵条約のようなものが結ばれていた。
つまり、兄弟の誰かが好きなミュージシャンには他は手を出さない。
だから、ホール&オーツを兄以外が買うことは許されなかった。
もっとも、こちらとしては兄が新譜を買ってきてくれるのだから、
お小遣いの節約になるわけで、何の不満がありましょうか。
しかし、そのうち兄の趣味はフュージョン方面に移行し、
ぼくが聴きたいと思っていたホール&オーツの新作「ライヴ・アット・ジ・アポロ」は
ついに我が家のレコード棚にやってくることはなかった。
ホール&オーツのふたりが
心のアイドル、テンプテーションズの2大ヴォーカリスト、
デヴィッド・ラフィン&エディ・ケンドリックスと共演しているレコードである。
ぼくはテンプテーションズが聴きたかったのに、
残念ながら兄はジョー・サンプルが聴きたくなっていた。
ふたりの”あこがれ”の行く先がうまく折り合わなくなった瞬間だった。
年を取る、ってこういうことなのね、と知った瞬間でもある。
「ノー・グッドバイズ」はホール&オーツのアトランティック時代をまとめたベスト盤で
兄との思い出とは直接関係ない。今はこれしかハイファイにはないのだ。
彼らのサード・アルバムになるはずだった幻の音源が3曲入っていて、
アリフ・マーディンがプロデュースしたフィリーソウル・ナンバーで、どれも楽しい。
ぼくの”あこがれ”は、あながち間違ってなかったよと教えてくれているような気分にもなる。(松永)