Wildcat Jug Band / Don’t Give Me No Goose For Christmas, Gr

Hi-Fi-Record2006-10-12

 ボストンは憧れの街だ。ハーヴァードやマサチューセッツ工科大、ボストン大学、それにバークリー音楽院などを擁する学園都市。ボストンとケンブリッジの街の間には悠々たるチャールス・リヴァーが流れ、季節には学生のボートレースが催される。川沿いの緑濃い森には野外音楽堂があり、独立記念日にはボストン交響楽団のメンバーがポップスを演奏するボストン・ポップスのフリー・コンサートが開催されるとも聞く。
 独立13州のひとつ、マサチューセッツ州の中心を成す都市であり、早くから開かれた街だけあって、表通りを一筋曲がるとくねくねと続く細い小路がつらなり、突然に歴史を感じさせる煉瓦敷きの道筋と出くわすこともある。
 ダウンタウンの一角を除けば、たぶんこの1世紀以上もの間、その佇まいを変えていないに違いないと思われる街並みが、そこここに見られる。とても落ち着いた空気が感じられる街だ。


 口ひげをたたえるアンディ、スーツに身を包むマイク、黒縁のボストン・タイプの眼鏡をかけるスティーヴ、黒いベストを着てスタンドカラーの首にネクタイを巻いたボブ。そんな出で立ちの若者達6人。そして偉人の銅像の膝に座る美しい脚の女性が一人。たぶんどこかの大学の中庭で撮影された風景だろう。これが表ジャケットだ。
 裏ジャケットには、彼らの演奏風景のカット写真が配されている。銅像に座っていた彼女、美しきパット嬢がこちらではブーツを履いて、ウォッシュ・ボードをかかえてにこやかに微笑んでいる。ボストンの若者達のジャグバンド。彼らが自主制作した唯一のアルバムだ。


 同じボストンの街で先に活動を始めていたジム・クエスキンのジャグ・バンドに比べると、ずっとアマチュアっぽいし、素人臭い。レパートリーの重複を絶妙に避けていたり、仮に同じ曲を演奏していてもアレンジを違えていたり、丁寧に工夫している。ジョン・セバスチャンのレパートリーもある。邪気無く音楽を楽しんでいる。それにしても、すんなりと心のうちに迫ってくる。どうしてなのだろう、とてもやわらかい気持ちになる。


 大それた目的など感じさせない。集い合って楽しむこと。そこに若さの輝きを映し込むこと。ただそれだけの音楽。そして何かを残すこと。もしかするとそんな風にして、思わず出来上がった作品なのかもしれない。
 60年代の青春の断片が、ボストンの街の風景と共にある。それが僕には、たまらなく愛おしい。(大江田)


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