V.A. / Home Grown 1976

Hi-Fi-Record2006-10-16

 ハイファイの初めての買付の時に、ハワイに立ち寄った。メインランドの帰りにハワイに寄っても、航空券代金に変わりが無い、そういうチケットを持っていたので、だったら寄ってみるか程度の気持ちで、ホノルル行きの飛行機に乗り込んだ。西海岸からハワイに向かうと、到着するのは夜。ワイキキに向かう高速道路H1を走りながら、胸が高鳴ったのを覚えている。


 10年前にはまだホノルルには、レコード店があった。そうした店を回りながら、ジャケを見てピンと来たハワイアンを手当たり次第に買った。その中に合った1枚がこれだ。


 Home Grownという言葉に惹かれたのだろう。ハワイの自前の音楽。1976年から1980年まで、毎年ごとに4種類のアルバムがあった。若い人たちが参加しているに違いない、だったら期待できるだろうくらいの軽い気持ちで日本に持って帰った。


 FM局への公募音源を集めたものと知り、とにかくこれがハワイの音楽状況のドキュメントなのだとわかると、俄然興味が湧いた。アメリカ西海岸のロックや、カントリーロック、シンガー・ソングライター・ムーヴメント、ギャビィ・パヒヌイ以降のハワイアンなど、さまざまな影響が伺える音楽が、ごくごく素直に演奏されていた。自宅録音のものもあれば、簡単なリハーサル・スタジオで録音されたに違いないサウンドの作品もあった。そのどれもがピュアでまっすぐな情熱に裏付けされていることが感じられるもので、ちょっとぼ〜っと夢見心地になってしまうほど、素晴らしかった。


 例えばアコギによるメジャー7のカッティングが響くカントリー・リヴィングの「Country Living Hawaii」(1976年の第一集に収録)。同時代の西海岸SSWたちの音楽と響き合うようなサウンドで、バンドの形態はシンガー・ソングライターのユニットだ。歌詞ではハワイの暮らしの素敵さを自ら褒め称える。生まれた土地で生きている、その喜びがにじみ出ている。ハワイではそれが当たり前なのだ。うらやましいなと思う。


 アメリカのシンガー・ソングライターを追い求めつつ、どこか見失ってしまっていたナイーヴでやわらかい気持ちを、僕はHome Grownの諸作の中に今一度見出した気持ちになったのだった。こうして70年代世代のコンテンポラリー・ハワイアンに首ったけになった。



 今ではハワイアンならば、何でもオーケーの耳になった。ハワイアンには様々な音楽が流れ込んでいて、そうした様々な支流を集めながら大いなる河の流れが出来上がっている。その音楽の連なりが見えるようになった。



 ときどきHome Grownを引っ張り出して、聞き返す。
 そのたびに発見がある。
 ほっとする気持ちになるのは、初めて聴いたときと変わらない。
 ハワイアンは善意の音楽だなと思う。聴き手に微笑みかける音楽だなとも思う。


 ハイファイでは、Home Grownのアルバムを切らすことなく扱い続けてきた。
 ハワイ音楽のみならず、音楽というものが生まれ出る現場に触れるためのとってもいいテキストだと思うのである。(大江田)


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