Darling And Street ダーリン&ストリート / The Possible Dream

Hi-Fi-Record2006-10-28

 エリック・ダーリンは、1956年にはタリアーズの「バナナ・ボート・ソング」、そして1962年代にはルーフ・トップ・シンガーズの「ウォーク・ライト・イン」と、主宰したグループで2曲の全米ナンバー・ワン・ヒットを放っている。ともに自作曲ではなく、前者はカリプソ、後者は古いブルースのアダプトだ。12弦ギターを始めとするインストルメンタルや、独特の黒っぽいフィーリングなどに素晴らしい才を見せる人だったと同時に、時代の流れに音楽を投げ込み耳目を集めることが上手いサウンド・プロデューサーでもあった。


 パトリシア・ストリートは、ルーフ・トップ・シンガーズの後期に加わってきた女性シンガーだった。彼女が参加していた時代のルーフ・トップ・シンガーズの演奏風景が、映画「フォレストガンプ」の背景を解説したCDRに収録されている。強力なビートを強調した「ウォーク・ライト・イン」に合わせて、会場いっぱいの聴衆が身体を左右に動かしながら楽しんでいる様に、驚かされた。ロックンロール・パーティにも似た熱気がうずまいている。



 ルーフ・トップ・シンガーズ結成後、いち早くヒットは放ったものの、その後が途絶えてしまったことにエリックは随分と思い悩んだという。パトリシアは、いち早くそれに気付いた。時代と自分とが少しずつ乖離し始めていることをエリックは予感し、苦しみ、恐れたのだろう。周囲では少しづつシンガー・ソングライターの潮流が始まっていた。


 
 パトリシア・ストリートは、エリックの傍らで10年以上の時を共にした。エリックが書き記したメロディに詩作を提供し、二人で作品を作った。
 そしてアルバムが誕生したのが1975年。
 とても軽やかでポップな作品だ。キュートなアコースティック・スイングサウンドとメロディには、穏やかな感情が溢れている。そして希望的な視線に溢れた歌詞が、素敵だ。タイトルにも、彼らの意図がさりげなく示されている。
 10年間のコラボレーションが、結実した。


 時代ごとにエポック・メイキングな作品を発表してきたエリック・ダーリン。この後には、またしばらくの沈黙の期間を迎えている。(大江田信)


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