Len Barry レン・バリー / Ups And Downs

Hi-Fi-Record2006-11-15

 オールディーズ・ファンにその名を知られているドゥーワップ・グループ、ダヴェルズに在籍。1965年に、グループを離れて大ヒット「ワン・ツー・スリー」を放ったことで知られる白人R&Bシンガー。
 ポップスのトレンドがシンガー・ソングライターへと動きを見せる中で、彼が発表した72年のアルバムがこれだ。



 60年代と70年代の音楽シーンとの間には、大きな断絶がある。ブリルビルディング時代に既に花形作家で、70年代になっても生き延びて成功したのは、キャロル・キングだけだという見方もあるほどだ。
 アメリカにはもちろんオールディーズのシーンがあって、古き良き往年のヒット曲を中心にレパートリーを用意して、バンドを従えツアーを廻るルートがある。そうしたオールディーズ・サーキットの世界に身を置いて生き延びるアーチストもいれば、時代のトレンドと組みしあって作品を残す人もいる。このアルバム「Ups And Downs」を聞いていると、レン・バリーが後者であろうとしていることがわかる。



 ほんの5、6年の間に持てる音楽性の一切が変わるわけではないから、かつての彼のやや甘口の語り口とメロディ香ってくるものの、そこににじんでくる苦みの味わいがいい。そもそものポップな味わいの音楽に、内省の厚みが加わったという言い方も出来るかも知れない。
 アルバム・タイトルには、自身のそれまでが率直に投影されている。(大江田信)


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