John Sebastian ジョン・セバスチャン / Welcome Back

Hi-Fi-Record2006-11-16

 アメリカに入国するときには、まず移民局の手続きして、それから税関の手続きをする。
 移民局(Immigration)の係官の前に立つときは、なんともいえず緊張する。係官によって質問の内容も違うし、対応もずいぶんと違うように感じる。ソフトで優しい人もいれば、ふん!ってな具合の、気むずかしい人もいるのだ。



 とある入国手続きの時のこと。
 「Well, how do you do ?」とにこやかに笑いかけられた。髪に白髪の交じる中年の男性だった。制服がよく似合う。
 ちょっと虚をつかれたボクは、まるで中学校の教科書を読むように、「I'm fine, thank you.」と応える。教科書には、こう書いてあったはずだ。
 そういえばこのあとに「And you?」と続けるように書いてあったはずだが、入国係官とひとりの日本人という関係の中で、そんな風に聞いて良いものかどうか、とまどう。仕事中の係官に、ご機嫌いかがですか?ときくのもどうかなと思ってしまい、このときも「Thank you」と言った後に、笑みを浮かべて彼の顔を見返していた。



 すると、何日くらいアメリカには滞在するの?と聞く。2週間くらいです。家族と来たの?それとも友人と?と聞かれ、友人と来ました答える。はい、左に手の人差し指をそこにおいて、と彼は顔写真と指紋を採る準備を始める。
 あっけないくらいの入国手続だった。
 その空港の入国手続きでは、より詳しい手続きを求められる人たち、どうも見るからに主としてアジア系の家族連れの人たちが、まとめられている場所が、横目に見える環境だったのだ。



 係官は、いまいちどボクに笑いかけて、「Welcome Back!」と良いながら、出口の方を指さした。
 これで手続きが終わった。



 ボクのパスポートには、アメリカ入国の際に押されるスタンプの跡が、すでに30箇所以上ある。繰り返しアメリカに来ていることが、彼にわかったのだろうか。「Welcome Back」って、なんて良い響きの言葉だろうと思った。「おかえりなさい」だなんて。



 もちろんこのアルバムのことを思い出した。
 そしてあのジョン・セバスチャンの暖かい声を思い出した。
 1975年に始まった週一回のテレビ番組シリーズ「 Welcome Back, Kotter」。高校の先生、Gabe Kotter を中心に、4年間も続いたこのドラマの主題歌「Welcome Back」を歌い、翌76年に彼は久しぶりに全米1位の栄誉を得た。これを歌うジョンの声。唄は「Welcome Back」と始まる。



 「Come Back」って、いい言葉だなと思う。「Come Back」する場所っていうのも、なんだかいいなと思う。
 心休まる場所、気持ちがほぐれる場所。なつかしい場所とつながっていくことを表す言葉なのだろう。(大江田信)
 


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