Dick Nevell ディック・ネヴェル / Snooze

Hi-Fi-Record2006-12-02

 1980年代に入ってからのシンガーソングライターのアルバムを聴いていると、それまでと音楽のまとめ方が変わってきていることを感じる。それは端的に選曲と構成に表れている。
 60年代から70年代にかけてのアルバムだと、全体の中心に向かって意識を集めるようにして選曲され構成されている。いわば円周を廻りながら少しずつ半径をすぼめ、中心軸に向けて歩みを進めているような印象がある。
 それが80年代以降のシンガーソングライター・アルバムだと、もっと音楽のバラエティが増えるというか、散策的に音楽のレパートリーが散りばめられているように感じる。



 どうしてそうした傾向に変わっていったのか、そのあたりはこれから考えてみたいと思っているのだが、SSW系の音楽家の懐が深くなってきたからかも知れないと思うのは、こういうアルバムを聴いた時だ。
 アルバム冒頭はカッコつきのいわゆる「フォーク」タイプのサウンドで始まる。それはそれでテンポ良く気持ちが良い。
 ところが2曲目になるとぐっと雰囲気が変わる。スタジオで収録しているときのマイクと彼の口元の距離がもう数センチも無いほどに縮まったのではないかと思わせるほどに、ボーカルのリアリティが増す。心のふるえがそのまま音楽とボーカルに反映しているに違いない。キチンとリズムをきざむのではなく、バラッバラッと歌の合間に挟み込まれるエレキ・ギターとフォーク・ギターのサウンドが、またいいい。さりげなくかぶさってくるコーラスのやわらかいニュアンスも素敵だ。こうして音楽が放浪し始める。



 1曲づつ書いていくときりがないので、あとはぜひハイファイのサイトで試聴していただきたいのだが、80年代以降的なバラエティの持たせ方のアルバムに馴れてくると、自分の耳とアルバムとの向かい方が変わり始めることに気がつく。
 ゆるやかなまとまりの楽しさを素直に受け止められるようになってくる。80年代的な音楽の引き出しのあり方に、気持ちが向かうようになる。それはたぶん60年代に始まったシンガーソングライター音楽の歴史の蓄えの表出でもあるのだろう。



 アメリカ東北部ニューハンプシャー州のフォーキーなシンガーソングライター。彼の音楽は、80年代フォーキーの扉を叩いていると思うのだ。(大江田信)
 


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