John Sebastian ジョン・セバスチャン / Tarzana Kid

Hi-Fi-Record2006-12-07

 ジョン・セバスチャンは、ニューヨーク近郊のウッドストックに住んでいる。
 買付の旅の途中で、ウッドストック近くの高速道路を利用したことがあり、だったらということでウッドストックの直近のサービスエリア(アメリカではレストエリアと呼ばれる)に立ち寄った。
 レストランやお土産ショップやトイレなどがあるのは、日本のサービスエリアと同じ。もちろん電話がずらっと並んでいるのも同様だ。
 ここで松永クンと僕は、冷たく冷やして甘みを加えまるでアイスクリームのようにしてあるヨーグルトを買って食べた。コーンに載せたソフトクリーム状のものを松永クン、僕はカップ入り。それを口に含みながら、電話機の横に置かれている電話帳にジョン・セバスチャンの名前あるかもしれないと、松永クンが探しに行った。


 間違いなくジョンの名前と電話番号と、住所があったという。それがうれしくて、松永クンはメモを取っていた。
 その住所を復唱したり、電話番号を眺めたりしながら、その先の旅を続けた。それで、僕らはたぶん元気になったのだ。ジョン・セバスチャン宅の電話番号があったんだ、それを見つけたんだ!と話しながら、暗い夜道をひた走った。



 先日、フリッツ・リッチモンドの追悼コンサートに来日したミスター・ジョン・セバスチャンに、終演後の開場でその話をした。あなたの電話番号を、レスト・エリアで見つけたんですよ。すると彼はこう言った。「その番号に電話した?」「いいえ、してませんけれども」。「ああ、それはよかった。あの番号は間違っているんだよ。もう、ずっとそのままにしてるんだけどさぁ」。
 なんだ、そうだったんですかと、僕らは笑いあった。



 「あなたのアルバム、Tarzana Kid」がとても好きなんです」と付け加えた。
 すると彼の隣にいた女性、彼女はセバスチャン氏の奥さんなのだが、「あのジャケット写真は、私が撮ったのよ」と、教えてくれた。「ウッドストックで撮った写真。当時からずっとウッドストックで暮らしているの」。



 次作の「Welcome Back」に比べると、ややスクエアな感じもあるけれども、このアルバムが僕は大好きだ。人柄の音楽だなと思う。彼のアイデンティティが率直に示されている音楽だとも思う。ロックとフォークミュージックと、ジョン・セバスチャンとの関係がよくわかるアルバムでもある。それは、ぼくとロックとフォークミュージックの関係でもある。
 「三つ子の魂、百までも」的に好きだ。
 こんなに好きなアルバムの場合は、ちょっとした楽器の音色やボーカルの響きまで覚えていて、その記憶が音楽として耳の奥で響いているので、レコードは余り聞かない。少なくとも「何となく音を流している」的には聞きたくない。だから、レコードを取り出して、チラッと眺めてみてから、また棚にしまったりするのだ。(大江田信)


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