Steve Eaton スティーヴ・イートン / Hey Mr. Dreamer

Hi-Fi-Record2006-12-19

ティーヴ・イートンのアルバム「ヘイ・ミスター・ドリーマー」を
初めて買ったのはCDで。
当時はこのひとのことは、ほとんど知らなかった。


びっくりしたのは、CDのライナーノーツを書いていた方も
ティーヴ・イートンについての情報はほとんど無い
というようなことを書いていたことだ。


いや、おそらく
ファット・チャンスというグループをビル・ラバウンティとやっていたとか、
カーペンターズがこのアルバムから「ふたりのラブソング」を採り上げたとか、
幻のセカンド・アルバムが存在するとか、
そういうことは書いてあったかもしれない。


でも、そんなことは今となってはどうでもよい。
みんなわかってしまったことだ。
もっと大切なのは、
そのひとがスティーヴ・イートンについてわからないことが多いということに
とても真剣に向かい合って考えていたということだ。
CDが出たのは、つい数年前の話だが、
まだインターネットはそこまで現実に追いついてはいなかった。


今、このアルバムについて書こうと思えば、
それこそ彼の生い立ちから近況まで調べがつくだろうし、
さらに彼とメールでやりとりすればアルバム制作当時の思い出だって
聞けてしまうかもしれない。


それは重要なことだし、それを否定するつもりはさらさらない。
ぼくだってCDのライナーを書いたりするから、
そういうときは調べに調べる。
でも、ときどき、それが良い謎解きになっているのか
自問にかられる。


このアルバムの曇りと青空が入り交じって、
いくらか曇りが勝っている空の色がぼくは好きだ。
その青が、どういう青なのかという証明は必要ない。
でも、ときどきその正体を突き止めることに熱心になってしまって、
その色を名前のない色として受け止めることを忘れてはいないか。


21世紀になって、
謎を謎のままとして夢を見る力が
人類から本格的に消え失せつつある。


ティーヴ・イートン
「ヘイ・ミスター・ドリーマー」と呼びかけた時代が
遠くなったことは確かだ。(松永良平


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