Marie Cain マリー・ケイン / Living Alone

Hi-Fi-Record2006-12-23

 これはかつて、ギタリストでアレンジャーのトクちゃんこと、徳武弘文さんに教わったレコード。彼の家に遊びに行ったときに、聴かせてもらってビックリ。それから探しに探して入手した。
 1976年にリリースとクレジットにある。恐らく発売後、数年してのことだったはずだ。



 カントリーのメッカと思いこんでいたナッシュヴィルで、こんなにロックっぽいアルバムが作られているのだということに驚いたと感想を述べたら、ナッシュヴィルだからって、カントリーだけじゃないんだよと彼が言う。そのあとに話してくれた細部はともかくとして、マリー・ケインの本作がいかに巧みにアレンジされている音楽なのかを、それぞれの曲を聴きながら具体的に解き明かしてくれた。ナッシュヴィル式のレコーディング方法についても、教えてくれた。



 今になってみると、このアルバム収録曲に施されているアレンジの豊かさ、数学的な緻密さ、その徹底ぶり、そしてそれがミュージシャンの肉体的な反応の積み重ねとして響いていることなどが、見えてくるようになった。ちょっとしたガット・ギターのフレーズの一端や、ボーカルのバックに用いられたストリングス・カルテットの響きなど、憎らしいくらいに堂々たるプロの技が光っていることにも、気付くようになった。



 おそらくレコーディングの過程ではドラム、ベース、ピアノ、ギターなどの4リズムのオケ録りをしたあとに、ストリングスやブラスを重ねたのだろう。リズム・セクションの動きや、仕掛けや、イントロのフレーズなどを踏まえて、ストリングスやブラスのフレーズが譜面に書かれたのではないかと思う。
 リズム・セクションのレコーディング後に、ストリングスやブラスを重ねるこうした手法は、このアルバムだけに見られるものではない。
 すぐに思いつくだけでも、たとえばデヴィッド・フォスターとジェイ・グレイドンが共同で制作していた70年代末期の一連のAOR作品でも、同様の手法がとられていたはずだ。恐らく他にも枚挙にいとまがないほどあるだろう。




 そうすることでリズム・セクションのスポンテニアスな躍動感がうまく生かされる。音楽がとてもロックっぽくなる。
 ボブ・ディランの「Just Like A Woman」のカバー、そしてミディアム・バラードの「What Am I Doing Here」へと続く流れが、とてもいい。(大江田信)



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