V.A. / 100% Fancy Grade : An Anthology Of Fine Vermomnt Music
南方憧憬と言う言葉がある。
古くからある言葉だけに様々な使われ方をしているようだが、今風に言えば仕事を離れてリラックスすならば、南の海の地がいいなあ〜的なことになるのだろうか。サンサンと太陽の陽光きらめく海辺で、時を忘れること。
この反対の言葉と言えば、北方憧憬。こちらはあまり見かけないように思う。検索エンジンで探しても、南方憧憬の二十分の一も出てこない。
なにしろ北国の寒さの中に身を置くことを想像すると、その厳しさに首筋も縮まってしまうというものだ。
フォーク、シンガー・ソングライター音楽だったら、アメリカの北国の音楽がいい。
冬のこの時期の音楽だったら、ミネソタ、イリノイ、ワシントンなど、北国ものに限ると思う。コロラドの音楽を加えてもいい。
と思っていたら、こんなアルバムを見つけた。
ボストンから北西に半日も走らないところに位置するヴァーモント州。標高の高い山中に、小さな街がポツン、ポツンと点在している北の地である。
とある夏の日、息を呑むほどの青空と、真っ白な雲に驚いた。真冬の今頃は、さぞかし雪におおわれているに違いない。
彼の地の複数のインディペンデント・レーベルからリリースされた音源をまとめた作品。いかにも穏やかなたたずまいと、知的なサウンドをまとった芯の強い音楽を収めた選集だ。おそらくボストンの音楽シーンの影響を受けていた地に違いない。かつてボストン界隈で活動していたアーチストの幾人かが、今ではヴァーモントに移り住んでいる。
北国の音楽は、いい加減な所がない。これはイイ意味だ。自身の内奥と音楽の交歓が、そのまま表現の支えになっているし、音像には緻密な味わいがある。
面白いことに、北の地で南方憧憬的な音に出会うこともある。例えばワシントン州シアトル界隈のPapaya、ミネソタ州ミネアポリスのWill Sumner。本作品に収録のグループ、Kilimanjaro。そのサウンドからは、南の風がそよぐ。
ヴァーモントの音楽。ちょっと気合いを入れて探してみたいと思い始めている。(大江田信)