Bob Bovee ボブ・ボヴィー / The Roundup
買付のモーテル暮らしの最中、ふと夜汽車の汽笛を耳にすることがある。
車で街中を走り回っているときには、その街に列車の路線が通っていることに、気付かない。それが街中がシンと静まりかえった夜になると、びっくりするくらいに近くを汽車が走っていることに驚くことになる。
モーテルとは、そういう場所にあるものなのかもしれない。そういえばブルース・ブラザースの映画に、シカゴで二人の泊まるモーテルが、電車の通る線路のすぐ隣りだったという場面があった。
あれほどに極端ではないまでも、モーテルにいて列車に音に気付いたのは、一度や二度のことではない。
夜の夜中に思いもかけずに汽笛の音色を聴くと、胸苦しいほどの寂寥の思いにとらわれてしまう。
かつて半世紀以上も前のこと、おそらくは相当数の移動手段を持たなかった人々にとって、汽車は、ここではないどこかに連れて行ってくれる大いなるものだったに違いない。だからといって誰もが今の生活を断ち切れる訳もなく、未だ見ぬ未来を夢想させるツールとして機能してきたという一面もある。
汽車を扱った歌は数多くあり、トレイン・ソングと呼ばれながらひとつのジャンルを成してきた。
ジャズの世界で繰り返し演奏されてきた「チャタヌガ・チュー・チュー」。ここでは埃っぽくフォーキーな演奏で聴いてみたい。
ミネソタを拠点に活躍するボブ・ボヴィーが、ハーモニカの音色を交えつつギターで弾き語る。ウキウキとした演奏が、生まれ故郷に自分を連れ戻してくれるチャタヌガ行きの汽車の勇姿を軽妙に描き出している。(大江田信)