Danny Kortchmar ダニー・クーチマー / Kootch

Hi-Fi-Record2007-02-11

 たまにこれは誰の何という曲なのだろう?と尋ねられることがある。
 店頭で口真似で歌う方もいるし、NHKのお昼の番組のテーマとしてほんの数十秒流れるあのメロディはなんだろうというお尋ねもあるし、機器に録音して持って来る方もいる。


 かつてハンディ・カセット全盛時代に、FMかなにかのラジオ番組で放送された曲なんですけど、これって知ってますか?としながら、イヤーフォンを差し出されたことがあった。曲の頭出しがしてある。数秒もしないうちに、 ダニー・クーチマー の(I Love You)「For Sentimental Reasons」とわかった。



 キラキラと光りながら跳ねるようなリズム。ういういしい若さそのものをパッケージしたような楽しさ。1940年代中期にナット・キング・コールがヒットさせたスタンダードを、 ダニー・クーチマー は70年代のシティ・ソウル風のアレンジを施して、見事に衣装替えをさせている。
 ダニーのアルバム「Kootch」に収録されていることを知ると彼はとても喜んで、偶然にも店頭にあったレコードを買ってくれた。友人の幾人か、そしてレコード店のいくつかに聞いてみたけれども、誰の何という曲かわからなかったのだという。


 その曲を好きになる入り口が、ふときっかけで訪れる。止むにやまれぬ思いと共に、もう少し詳しく知りたいと思う。そうして自分と音楽が結びつき始める。その現場と出会ったような気持ちになった。



 彼は、そのころ下町にある牛丼店の深夜勤務に勤めながら大学に通う学生だった。繰り返し牛丼店を巡る面白く可笑しく、そしてちょっと悲しいアルバイトの様子を話してくれた。
 「For Sentimental Reasons」を聞いていると、深夜、湯気を立てながらカウンターに差し出される牛丼のことを思ってしまうのだ。(大江田信)



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