Ralph Dollimore ラルフ・ドリモア / Piano Dimensions
Alex Steinweissが手がけたレコード・ジャケットをまとめた本を、買付の際に買ってきた。
古くSPの時代の1939年、それまで茶色いざら紙の収納にくるまれて販売されていたレコードに、ジャケットを添えるようになった頃、その最初期から活動を始めたデザイナーである。
80年代にはパッケージ・デザインの仕事もあるようだが、この本には主として40年代から60年代にかけてのレコード・ジャケット作品がまとめられている。
軽やかさと暖かさをたたえたタイポグラフィ。音楽世界を現出するようなイラストレーション。現代絵画風の作品もある。そのどれもがどこかしら牧歌的でとても楽しいのだが、ひとつ気付いたことは、演奏しているアーチストの姿を映し込んでる作品が、ほとんど見あたらないことだ。ジャケットが、アーチスト・プロモーションとして用いられていないのである。
盛んにアーチスト写真を用いるようになる1950年、その前史にあたる時期の作品も多く収録されているからなのか、それとも彼がそうした傾向を嫌ったのか、もしくはクラシックやジャズなど彼が扱う音楽ジャンルがそうさせたのか、このあたりは即断は出来ないけれども、アーチスト・プロモーションを兼ねているジャケットを見慣れている目には、彼の作品はとても新鮮に写る。
まるで美術作品のようだ。
ハイファイの店内を見渡しながら、同様のジャケットを探した。目に留まったのがこれだ。
ピアノの鍵盤の持つ可能性が線状の光線にコラージュされ、タイトルと彼の名前がデザインされている。
ジャケットを眺めながら、背筋の伸びたラルフ・ドリモアのピアノの音色を聴く。
ピアノの向こうの光成す渦にふと吸い込まれそうになる。(大江田信)