Bert Kaempfert And His Orchestra / Love That
ベルケンことベルト・ケンプフェルトは、やっぱりおもしろい人だとまた思った。
自作曲をアルバムに織り込むことが巧みなオーケストラ主宰者なのだ。このアルバム「Love That」のA面では、スタンダードの「Caravan」「Again」「I Should Care」の間に、自作曲の「Lonley Is The Name」、そして「Steppin' Pretty」を挟み込んで構成している。
ありもののメロディを並べて、苦労して一定の時間を構成するくらいだったら、自分で書いてしまおうということか。
または著作権セールスに長けていた音楽ビジネスマンだったのか。確かに彼は、ハンブルグ時代のビートルズをレコーディングしたり、才覚を見せたドイツ・ポリドールのA&Rだった。
それともアルバムの持つ特性のひとつ、時間と気分を組織することに早くから自覚的だったのか。
彼の作品は埋め草のようでいて、実はそうではない。このアルバムを聴いていると、実にうまく聴き手の気分に変化を持たせることに貢献することに気付く。
サウンドそのもののには変化の乏しい人なのだが、聴き手の耳をそばだてつつ、アルバムを飽きさせない工夫は巧いと、改めて思うのだ。
アルバムという一定の時間を制作者の手中に収めるための、ささやかにして巧みな手品。彼の書くメロディが、そんな風に聞こえてくる一瞬がある。(大江田信)