Laura Nyro ローラ・ニーロ / New York Tendaberry

Hi-Fi-Record2007-03-03

買付をしているとき、
レコードを見つけて
本当に息が止まりそうになったことが一度だけある。


息が止まるだけでなく、
そのままそのレコードを抱えて、
どこかに逃げ去ってしまいたいとさえ思った。


それが、ローラ・ニーロ「ニュー・ヨーク・テンダベリー」の
ウワサにしか知らなかったジャケ違い盤。
(写真はもちろん現行盤のものです)


初期プレスに封入されていた歌詞ブックレットをご存じの方なら
あそこにアパートのベランダと思しき写真が
あしらわれていることがわかるだろう。


問題のジャケ違い盤は、
そのベランダにひっそりと彼女が座っているというデザイン。
よく知られたこのモノクロのポートレートとはまったく違う。


女性の強さ、業の深さを感じさせる現行のジャケとは違い、
ベランダにぽつんといる彼女は
誰かがそばに行って抱きしめてあげていなければならないという
気持ちにさせられる。


あのジャケで聴くか、
このジャケで聴くか、
そのどちらかでアルバムの印象は随分変わるはずだ。


そして、最大の謎。
このジャケ違い盤が何故市場に流出したのか。


プロモーション盤の段階で
本来予定されていないジャケが出回ったという説も考えられるが、
それは却下したい。


現在確認されているこのジャケット(日本国内にも数枚あるはず)は
ハイファイ周辺で確認した限り(といってもわずか2例)、
すべてレギュラーコピー(プロモ盤ではない)で、
しかもオリジナルの360°ステレオ・ラベルではない。
初期プレスに付いているはずの歌詞ブックレットも無い。


つまり、初回プレスが売り切れて、
追加プレスが要請された際に、
アメリカのどこかの工場で間違って
コンペに破れて廃棄されたはずだったジャケットが
使用されたのではないかという説だ。


いずれにせよ、これは工場レベルのミスであって、
真実はもはやレーベルの関係者に訊いたってわかりはしまい。
つきとめたから、どうだっていうのさ、の世界である。


ただ、ベランダにたたずむローラ・ニーロを印刷した
「ニュー・ヨーク・テンダベリー」は確実にこの世の中に存在する。
そして、ローラ本人なのか、デザイナーなのかわからないが、
誰かがそのジャケこそ、このアルバムにはふさわしいと主張して
コンペの最後まで争っていたということだ。
でなければ、わざわざ印刷までされはしない。


もう一回どこかで見つけたら、
そのときは本気でレコード抱えて
逃げ出してしまうかもしれないな。(松永良平


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