Howard Roberts Quartet / Goodies

Hi-Fi-Record2007-03-08

 ジャズでは、まず冒頭にバンドの主役プレイヤーが、曲のテーマをワン・コーラス演奏することが習わしになっている。それが終わってから、アドリヴに入る。
 そのテーマ・メロディを弾くときに、プレイヤーやどんなことを考えているのだろう。たとえば彼は、頭の中で歌詞を歌っているのだろうか?



 ハワード・ロバーツの演奏を聴いていると、おそらく歌詞を心の中で口ずさんでいるんじゃないかと思ってしまう。歌詞の持つ言葉としてのリズム感が明快に表現されているように感じる。
 


 インストだからといって歌詞の語感を無視して良い、とはならない。
 女子十二楽坊が演奏する日本のヒット・ソングのメロディ、たとえばSMAPの「世界にひとつだけの花」を聴いていると、微妙な節回しに違和感を覚えることがある。おそらく聴き手の僕は、胸の中で知らず知らずのうちに歌詞を想起しているのだろう。その歌詞の日本語がもつリズムと、女子十二楽坊が演奏するフレージングとが整合していない箇所、例えばアクセントが違ったり、言い回しが微妙に違って聞こえるところに行き当たると、おやっと思う。



 女子十二楽坊の彼らは譜面を見ながら演奏しているのだから、全員のアンサンブルに乱れはないし、メロディに破綻があるわけでもない。でも居心地が悪い。それは演奏されているフレーズが、微妙に日本語になっていないからである。



 ハワード・ロバーツの弾くテーマのメロディを、例えば僕でも歌詞を覚えている「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」を一緒に口ずさんでみると、すんなりと歌うことが出来る。フレーズが言葉になっている。
 それってインストルメンタルにおいて、とっても重要な事ではないかと思う。
 テーマの提示の歳にすでにだいぶメロディを崩して演奏するジャズ・プレイヤーも少なくない。それにくらべるとハワード・ロバーツの場合は、メロディの原型をくっきりと残しながら演奏している。これがスッキリとした聴後感をもたらしているのだろう。
 むしろ彼の場合は、一曲、一曲が短いのが残念。おっ始まったなと思うと、もう終わってしまう。(大江田信)



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