Nancy Wilson ナンシー・ウィルソン / Take My Love

Hi-Fi-Record2007-04-15

 先日の第49回グラミーでは、「Turned To Blue」でベスト・ジャズ・ボーカル・アルバムを受賞。これで3回目のグラミー受賞、それも2004年に続いて2006年度の受賞となったナンシー・ウィルソン。
 随分とお歳を召したなあというのが正直なところでもあるのだが、かくしゃくとした足取りでステージに登り、謝辞を述べていた。



 最初の受賞は、ベスト・リズム&ブルース・レコーディングのカテゴリーで、1964年のこと。思いの外にパンチの効いたボーカルには、ボトムの効いたリズム&ブルースのリズム・セクションの響きが似合う。
 本作は1980年の発表。ブルデュース、アレンジ、そしてレコーディング時にバンドのコンダクターに当たったラリー・ファーローが書いた作品を多く採り上げている。この時代のAORと呼ばれている音楽と、サウンドは全くの近似値。ハーヴィ・メイソンやリー・リトナー、ビル・チャンプリンなど、そうした方面に明るい方には親しみ深い名前が並んでいる。ソフィスティケイトされたレイト70sのR&Bである。



 この後しばらくして彼女は来日し、日本でのレコーディングを行っている。
 その際にインタビュー取材に立ち会ったことがある。彼女は自分が音楽を行うこと、歌うこと、そうしたことの全てを「ビジネス」とい言葉を使いながら説明した。なんの気取りもなく、彼女は普通の言葉として、「ビジネス」を使った。彼女の言う「ビジネス」という言葉には、そこから得られる喜びと同じくらいの重さで厳しさが伴っていることが感じられた。



 レコード業界に入ったばかりのボクは、自分の音楽を「ビジネス」という言葉を使って説くアーチストに、初めて出会った。忘れがたい記憶だ。(大江田信)


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