Erroll Garner エロール・ガーナー / Magician

Hi-Fi-Record2007-04-30

ピアニスト、うなる。


生まれて初めてピアニストの“うなり”を意識したのは
キース・ジャレットで、
荻窪の喫茶店でお茶をしていたときだった。


歌うのではなく「んー、んーうー」とうなる。
何かの楽器を演奏していて、
つい一緒になってメロディを口ずさもうとして、
そこまで熟成せずに、でろんと吹き出る。


身体の中で鳴っている音楽が
意図せずこぼれだす瞬間が好きだ。


今でもキース・ジャレットはそんなに好きじゃないけど、
彼の“うなり”は、良い“うなり”だと思う。


エロール・ガーナーもよくうなるひとだが、
この遺作での“うなり”は格別だ。
鍵盤を叩いたり、身体を揺らしたりするときに、
そのアクションと一緒に音楽がこぼれだす。


その“うなり”のひとつひとつに大した意味はなくても、
含蓄だけは大変なものがある。


そんな濃い“うなり”が聴きたくなると、
このアルバムが無性に聴きたくなる。
「クロース・トゥ・ユー」は大変に洒落た仕上がりだが、
ときどきぼくの耳には”うなり”しか聞こえなくなる。


そして、何だか「はい」「はい」と
相づちを打ちたい気分にさせられるのだ。(松永良平


Hi-Fi Record Store