Erroll Garner エロール・ガーナー / Magician
ピアニスト、うなる。
生まれて初めてピアニストの“うなり”を意識したのは
キース・ジャレットで、
荻窪の喫茶店でお茶をしていたときだった。
歌うのではなく「んー、んーうー」とうなる。
何かの楽器を演奏していて、
つい一緒になってメロディを口ずさもうとして、
そこまで熟成せずに、でろんと吹き出る。
身体の中で鳴っている音楽が
意図せずこぼれだす瞬間が好きだ。
今でもキース・ジャレットはそんなに好きじゃないけど、
彼の“うなり”は、良い“うなり”だと思う。
エロール・ガーナーもよくうなるひとだが、
この遺作での“うなり”は格別だ。
鍵盤を叩いたり、身体を揺らしたりするときに、
そのアクションと一緒に音楽がこぼれだす。
その“うなり”のひとつひとつに大した意味はなくても、
含蓄だけは大変なものがある。
そんな濃い“うなり”が聴きたくなると、
このアルバムが無性に聴きたくなる。
「クロース・トゥ・ユー」は大変に洒落た仕上がりだが、
ときどきぼくの耳には”うなり”しか聞こえなくなる。
そして、何だか「はい」「はい」と
相づちを打ちたい気分にさせられるのだ。(松永良平)