Obray Ramsey オブレイ・ラムゼイ / Jimmie Rodgers Favorites

Hi-Fi-Record2007-05-11

 お店に見えたお客様に紹介いただいた本、「古本買い 十八番勝負」(嵐山光三郎著 集英社新書)を読む。古本買いの強者達5人が集合し、東京のとある街の古書店街で一斉に本を買う。ただし稀覯本は買わない。その後に酒席で自慢し合う。その顛末をつらつらとまとめた内容だ。もともとは小説すばるの連載企画だったという。


 本についてのコメントもおもしろいが、ちょっとずつ挟まれている古本屋の並ぶ街の描写もおもしろい。
 それにしてもモノを買うという行為をここまで率直に書いて嫌みがないのは、著者の懐の深さか、それとも題材が本だからか。いちいちそうだったのか、なるほどと相づちを打ちながら読んでいると、身体が熱くなってくる。そして猛然と本を読みたくなるという、不思議な一冊だ。



 冒頭にこんな一節がある。「一冊の本が何人かの読書家の手をへて店頭に並び、ようやく自分の番がきた、という思い。(原文改行)一冊の本がつなぐ精神のリレーが重要になる。前に読んだ人の感動の余韻がページの奥にこもっている。(中略)古本屋はこういった精神のリレーを仲介する業者なのだ」。
 コレを読んで、おや、この「本」を「レコード」と置き換えて、「読書家」を「レコード愛好家」と読み替えたら、まさにボクの仕事にも当てはまるではないかと思ったのだ。ムズッときた。
 ほかにも音楽に読み替えられる一節があった。
 「古本買いのたのしみは(中略)2 温故知新の精神を実習する 古きものを調べて新しき知識を得る。正確に言えばアイデア借用の技術を実習する。プロはパクリの達人である」ときた。
 なるほど、そうか。バレバレにならないようにパクること、それが出来る人をプロというのか。



 音楽の学習とは、真似から始まる。憑かれるように真似をしてしまう、それが音楽のスタートでいい。
 ただしそうして真似覚えた内容をいざ表明するときには、自身の精神のそのままが映り込むことを忘れてはならない。
 これはオザーク地方のフォーク・シンガー、オブレイ・ラムゼイがジミー・ロジャースのナンバーを歌うソング・ブックアルバム。ジミー・ロジャースは1930年代アメリカの大スターだった。オブレイ・ラムゼイの憧れの的だったに違いない。
 耳にするだにわかる。歌がオブレイ・ラムゼイのものになっている。歌い口のたたずまいが高潔だ。
 そしてジミー・ロジャースのオリジナルを知る者には、もうひとつの楽しみもある。
 ジミー・ロジャース版では、ジミー自身のギターによる伴奏が付く。オブレイ・ラムゼイは、それをバンジョーで演奏する。このバンジョーのスタイルが独特なのだ。オブレイ・ラムゼイ独自としか言いようのないもので、同時代のバンジョー弾きとはひと味もふた味も違う演奏をする。バンジョーを奏でる指にも、高潔な心が宿っているのである。(大江田信)


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