Odetta オデッタ / Odetta

Hi-Fi-Record2007-06-07

 同じく黒人女性シンガーのニーナ・シモンが、60年台の終わり頃だったか70年代に入ってからだったか、自らのルーツを確かめる意図を携えてアフリカを訪問する。Back To Africa という60年代の黒人運動のひとつの方向性に呼応しての行動だった。
 その後に彼女がどういう気持ちを持ってアメリカに帰ったのかはここではともかくとして、そのアフリカ行きを共にしたのが、オデッタだった。


 高まる黒人の意識と、ニーナ・シモンの音楽とは、70年代のある時期までシンクロしている。
 コンサートの会場が一種の解放区を現出したと評されるのも、ライヴ盤を聴くとよくわかる。


 オデッタにはそうしたことを証す書物も見あたらないし、論評を見かけたこともないが、このアルバムを聴くと、彼女の意識のありかが、少しは伺える気がする。


 オデッタは50年代末にハリー・ベラフォンテによって紹介された。
 ハリー・ベラフォンテが介した人に共通するやわらかでリベラルな意識を携えて、シンプルなフォークを歌っていた。


 このアルバムでは、音楽が一新している。
 ゴスペル色の強い作品に混じって、心の静けさをそっとはき出しているように響く「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」が配される。アフリカを思う祈りの曲もある。
 彼女のボーカルと、バッキングはジャズ・トリオ。
 ウッドベースの重たくどっしりとした響きが、ボーカルに強さとしなやかさを与えている。
 B面2曲目に収められた「リトル・ガール・ブルー」は、冒頭から数コーラスがベースのみをバックにしたボーカル。ささやかにピアノが加わってくるものの、最後までウッドベースを軸に音楽が組み立てられる。生のベースの大いなる力が、彼女を推し進めさせている。その素晴らしさと言ったら無い。


 黒人のあるべき姿を演じているように見えなくもなかったオデッタが、自身を今一度ハダカにしようとしている。そうしたチャレンジが見える。
 アルバムを聴き終わると、オデッタのボーカルとウッドベースの響きが深く耳に残る。そして今一度、彼女のボーカルには、力があることがわかる。(大江田信)


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