Tom Marion トム・マリオン / ’Osurdato’ Nammurato

Hi-Fi-Record2007-07-10

このCDは日本制作で、
だから正式なタイトルとしては日本語で紹介すべきかもしれない。


トム・マリオン&スウィート・ホリワイアンズの
「恋する楽士」。
スウィート・ホリワイアンズは日本のバンドで
彼らが全面的にバックを務めている。


トム・マリオンは、
かのロバート・クラム
サンフランシスコのSP盤好きを集めて70年代に組んでいたバンド、
チープ・スーツ・セレネーダーズに参加していたギタリスト。


チープ・スーツ(縮めました)は
趣味が高じた音楽の象徴のように言われることがあるけれど、
ぼくからしたら、
趣味が高じただけだったらあんな音はしない。


彼らはみんな本気で、
好きで好きでしょうがない音楽を、
他にやりたいこともないから、やる。


生きちゃって、歌っちゃって、どーもすいません。
そんなドツボ感、ムジナ感が、
ぼくを惹きつける。


才人たちの余暇の選択肢のひとつみたいな健全なバンドだったら、
聴く者の胸を時を超えて打ったりしないだろう。


数年前、
ジャネット・クラインと一緒に来日したトム・マリオンに
下北沢440の片隅でインタビューをした。


トム・マリオンの吐く息は、
クラムの描くコミックから抜け出してきた登場人物のようだった。
戦前の音楽が好きすぎて
ひとの倍も生きたような顔をしているけれど、
妖怪ではなく、ちゃんと人間の香りがした。
マニアック(Maniac)の接頭詞は
マン(Man)すなわち人間だということだ。


ギター・プレイの達者さについて
ぼくは細かいところまではわからないし、
この歌は、きっと一般的な基準ではうまくはないだろう。
好きすぎるんだな、と思わず苦笑い。
だが、
トム・マリオンの放つ鈍い輝きには、
人生ひとつ分の思いをすべて捧げた尊さがある。


それがこのCDの
近頃まれにみる価値だ。(松永良平


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