Joe Pass ジョー・パス / Simplicity
今年の梅雨は
我が家のベランダにある、
あじさいの花が咲かなかった。
茎や葉がしおれてしまったわけではなくて、
緑色の葉を大きく広げているのだが、
ただ花だけが咲かなかったのだ。
そういうことは
植物の世界ではよくあるのだそうだ。
あじさいの葉の緑だって
眺めている分には十分美しいのだが、
咲くべきものが咲かなければ
うまく評価されない。
まるで人生のようでもあるね。
だとしたら、景気よく咲くだけでない生き方もあるはずだ。
ジャズギターの名手、ジョー・パスには
その咲く花をあえて主役に譲り、
自分は相手を際立たせる緑の葉に徹するようなところがある。
弾きすぎたりはしないのだ。
そういう生き方を
古い時代のひとが和歌か何かに詠んだような記憶があるが、
今は思い出せない。
まあ、ジョー・パスは、
ソロの名作も多いし、
脇役の中ではかなり恵まれた役どころではある。
ジョー・パスの生き方やギターとよく似合うこのジャケは
今、ぼくの座るカウンターからよく見える位置の壁に飾ってある。
わざとそうしているのだ。(松永良平)