Ray Conniff Singers レイ・コニフ・シンガーズ / Somebody Loves Me

Hi-Fi-Record2007-07-19

 夕方5時を過ぎた今、もう街はうす暗くなり始めている。明治通りの街頭が、くっきりと目に映える。空は重く垂れ下がっている。夏がそこまで来ているというのに。



 レイ・コニフ・シンガーズをぼんやりと聴いている。気持ちが良い。
 彼の音楽の気持ちよさの源泉は、コーラスのリズムの整然とした立ち振る舞いだと思う。クワイアのシンガー個々の独自のフレージングを許さない。クセを排除して、一つの解釈を唱わせる。だからボーカルが器楽的に聞こえる。
 その感覚は堂々としたもので、これこそメジャー。アメリカが50年代から60年代初頭にかけて経験した経済の成長を、そのまま写し込んだような明るさが宿っている。



 そういう音楽が、この夕暮れに似合うなんて、ちょっと不思議な気もする。おい、がんばれよと、ぶしつけにこちらの肩を叩くように聞こえるかなと思ったら、そうでもない。
 メロディが持っている感情を、コントロールされたコーラスのクールな響きがうまく抑制している。センチメンタルにならない。だから気持ちが良いのだろう。


 レイ・コニフのアルバムではエコーが効果的に用いられる。ミステリー・ドラマを始め、ラジオの専売特許だったエコーを、音楽ビジネスが積極的に利用し始めて10年近く。音楽録音におけるエコーは、モノ音源における楽器ごとのサウンドの分離感の向上、または奥行きにおける定位の確保を促進したが、こうしてステレオ録音に用いられるエコーが、また新たな効果を生み出していることに驚く。
 コンボとコーラスだけによる演奏が、まるでオーケストラのそれのように響いて聞こえるのだ。


 ジャケットの女性は、ボニー・トランピーター。レイ・コニフのアルバムを飾るカバー・ガールだという。
 ということは、まさか同時期のアルバム・カバーはすべて彼女が飾っているのだろうかと思って、いくつかのアルバムをひっくり返してみたけれども、どうも確信が持てない。同じ女性なのか、違うのか、これだけ髪型が違い、お化粧が違うと、ぼくには見分けが付かない。
 それにしても、ジャケットに専属のカバー・ガールを設定するという商品作りがあったことを知って、楽しくなる。音楽内容の予感のためにジャケットが用いられていた時代のキュートな思いつき。



 これだけ音楽がダウンロードされて楽しまれるようになると、まさかいつの日にか、若い人からジャケットって何ですか?って聴かれる日が来るのだろうか。(大江田信)


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