Shirley Bassey / The Bewitching Miss Bassey
ハイファイでは、松永・大江田の二人でアメリカに行って買付をする。
昼間のレコード店やコレクター宅の膨大なレコードの量に当てられてしまうせいか、レコードのことを考えない時間を作らないと、毎日がもたない。夜の数時間、ぼんやりテレビを見たり、ビールを飲んだりする。
それでも最後の最後には、日本に送るレコードのすべて、数千枚をすべてチェックするので、何を買ったのか覚えているはずなのに、こうしておやっと思うレコードに出会う。こんなレコードがあったのか。
このところ、そういうことが多くなった。
松永君がピックアップした一枚。シャーリィ・バッシィの「 The Bewitching Miss Bassey」。
初めて見る気分。壁から抜き出して、針を落とす。
一聴してこれは、僕の知っているシャーリィ・バッシィではないと思った。小股の切れ上がった声、鋭いリズム感、ゆったりとビートの間を泳がせるバラードでの声のコントロール。
まるで別人だ。
コメントに「『007』シリーズで世界的に有名になる以前に発売されたアルバムは、どれもなかなか見かけません」とある。なるほど。彼女は間違いなく、あのシャーリィ・バッシィなのだ。
レコードは、人から薦められるに限る。
自分で持っているレコードでも、誰かのDJの時に聞いて、驚きと共に改めて素晴らしいと気付くことがあるように、誰かの手を介したり、言葉を介すると、そこに起こっている化学変化と共に、こちらの耳に届いてくる。
このシャーリィ・バッシィのレコード。素晴らしい。気合いが違う。声がはじけ飛んで来る。
(大江田信)