Alfred Apaka アルフレッド・アパカ / Some Enchanted Evening

Hi-Fi-Record2007-09-21

 ハワイアンというと、ハワイを訪問する観光客に向けた観光的なエンターテイメントという一面と、ハワイに暮らす人々の日々の楽しみとしての音楽という一面とがある。ほかににもメインランドで疑似ハワイ観光的なショーを仕事としていたアーチストも多数存在していたが、それも多くは60年代よりも前のことで、ソル・フーピーをのぞくとそれほど話題とならない。
 ハワイ出身のアーチストが、メインランドで活躍することを目して行った音楽活動は、そうした狭間にあって、あまりスポットライトが当たっていない気がする。


 このアルバムは、アルフレッド・アパカのメインランド進出の意欲を感じさせる作品だ。デッカから発表された他のアルバムには、どこかしらいかにもハワイを感じさせる要素が刻印されているが、このアルバムにはそうした点が少ない。50年代アメリカの豊かさを感じさせるポピュラー・ソングが、ゆったりとした身のこなしとともに歌われており、その味付けのひとつにエキゾチックで夢うつつの場所、ハワイを想起させる要素をそっと忍ばせている。


 アルフレッド・アパカは、ワイキキのヒルトン・ホテルを本拠に活動した、最も著名なハワイアン・アーチストとして知られている。
 ただし彼はハリウッドやラスヴェガスで、ステージ・ショーを行いたかったという。それが彼のたっての希望だったらしい。
 となると、これはやはりメインランドの聴衆に向けて発信する作品なのだろう。ショー・ビズ関係者の耳に届くことを願う、あるいはメインランドでのショーのサンプルという意図もあったのかもしれない。
 アパカの夢は、若くして逝去したことで、未完のままについえてしまった。


 たぶんこのアルバムは、50年代男性ポピュラー・シンガーのヴォーカル・アルバムのひとつとして聞かれるべきなのだ。たまたま歌っているアーチストが、ハワイ生まれだったということにすぎないものとして。
 それがまたアパカの願いを読み取ることにもなるのだろうと思う。(大江田信)


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