Funky Communication Committee / Baby I Want You

Hi-Fi-Record2007-09-26

 「AOR」という略号。
 1970年代中期のアメリカ音楽業界が、ロック・ミュージックに大人向けのサウンドや歌詞を盛り込み、大人になってしまったかつてのロック少年たちにウケようというコンセプトをしてアダルト・オリエンテッド・ロックと名付け、その頭文字からAORとしたのがこの言葉の用いられた最初。


 「AOR」は、日本では独自の変容を遂げつつ使われてきた。
 なかでも白人ミュージシャンが演奏する黒人系のサウンド、それも70年代中期のブルー・アイド・ソウル的なロックは、日本の多くのAORファンが好むタイプの音楽。これが日本独自にAORを代表するものとして定着することになった。


 白人ミュージシャンが黒人音楽を演奏する、それは必ずしも70年代のロックに始まったことではない。
 ただし1960年代初頭の黒人公民権運動を経て、黒人と白人とを平等に扱うようにとした法律が制定されて以降、少しずつ白人と黒人の間のミゾが狭まっていく(言い方を変えれば白人が独占してきた既得権を黒人が奪い始める)プロセスと、白人が演奏するブルー・アイド・ソウル的なロックが増えていく傾向とが見事にリンクしている。これが僕の持論だ。
 黒人音楽を楽しげに模倣する(それこそがAORだと僕は思う)白人音楽が、最も多かった時代。
 そしてまた白人、黒人メンバー混合バンドが一番多かった時代でもある。


 で、このファンキー・コミュニケーション・コミッティー
 ここまで僕が述べた文脈にすっぽりはまるバンド・サウンドをしている。黒い白人ロック。ストレートの直球で気持ちが良いメロウネスと共に「Baby I Want You」と歌われる。
 黒人的サウンドのこなれ方が実に大人だ。懐の深い老獪でタフな不良のサウンドである。これがその当時に多く生産されたロス産の時として青く若いAORとは違うところ。
 それこそが南部マッスル・ショールズ制作の証なのだろうと思う。(大江田信)


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