Patti Page パティ・ペイジ / Let’s Get Away From It All 

Hi-Fi-Record2007-10-25

 本名はクララ・アン・フォーラー。パティ・ペイジと名乗っているのは、彼女が見出された20歳そこそこの頃に出演していたラジオ番組のスポンサー名が、ペイジ・ミルク・カンパニーだったから。すなわちその会社のイメージ・ガールみたいにしてメディアに登場していたわけで、日本で言えばヤン坊、マー坊とか、そういうことになるのかな。ちょっとニュアンスが違うか。


 1950年代中ごろ、黄金期のパティ・ペイジの作品。音楽で世界旅行をしちゃいましょうというアルバムです。「ローマの秋」「パリの空の下」「国境の南」「アイルランドの子守唄」などのタイトルが並びます。


 この作品を楽しむポイントはふたつ。
 ひとつはジェット旅客機が登場して、飛躍的に個人旅行の範囲が広がった時代を背景にしているということ。空前のアメリカ人が、世界に向けて旅立ち始めます。
 と同時にそうした旅に出ることが許されない一般ピープルが、海外の様子を空想するという楽しみも生まれ始めます。海外旅行のためのガイド本が誕生した時代です。
 このアルバムはそうした時代の気分とリンクしています。


 アメリカという国は移民の国ゆえに、日々の暮らしは眼前のアメリカでも、心は父や母が育ち、自分が幼くして離れてきた祖国という想いからなかなか脱し得ない。いわば故郷喪失感をぬぐい去りることができません。
 そうした人々の日常の発露として、ポルカアイリッシュ・ミュージック、イタリア民謡、ラテン音楽など、さまざまな音楽が街にあふれていました。それは音楽によるひとときの故郷帰りであり、異郷の者の耳にはエキゾチックな響きに聞こえたことでしょう。アメリカとは、もともとワールド・ミュージックの素地を持っていた環境ということが出来るかも知れません。そういうお国柄とも通じている作品なのかもしれないと思います。


 「Let’s Get Away From It All」の音楽はというと、ジャズをベースにしたサウンドに乗せて、各国の音楽を伸び伸びとスウィンギーに歌いこなすもの。彼女の資質が、まさにポピュラー・ミュージックと呼ぶにふさわしいものであったことを物語ります。おおらかにして味わいのあるポピュラー・ボーカル音楽の好例を、パティ・ペイジに見出すことが出来ます。
 ジャズのサウンドが香るからといって、すなわちジャズ・ボーカルではありません。20世紀の前半は、ジャズはポピュラー音楽のメインストリーム。大いなる王道です。ジャズの味わいを適度にたたえたサウンドは、時代のトレンドに呼応しつつ形を変えて様々に登場します。ついこの間まで、20世紀の後半において、ロックが長い間ポピュラー音楽の王道であったように。
 

 このアルバムは、先日、10月23日の日記で松永クンがご紹介した「魅惑の女性ヴォーカル・コレクション フィンガー・スナッピン・ミュージック編」の1枚。
 どうぞハイファイのサイトからご試聴ください。
 秋の気分にピッタリのアルバムです。(大江田信)


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