Anton Karas アントン・カラス / Karas Melodies
大学の同級生の女の子に帰国子女がいた。
幼い頃から父親の都合で海外を転々。
最終的に高校はアメリカに通っていたのだが、
もっと子供のころにはドイツにいたということだった。
何の流れでそういう話になったのかわからないが
彼女は映画の「第三の男」に出てくる
ウィーンの大観覧車を見たことがあると言った。
その遊園地に遊びに行った思い出があるのだ。
彼女はあの映画にはほとんどまったく思い入れはなくて
ただ記憶の糸が
その瞬間だけ画面に絡みつく。
彼女の言葉から出た
懐かしさという名の強烈な匂いが
青臭く映画の意味を語る男どもを軽くいなして
さっそうと飛び去って行った。
ぼくはその場面を通じて
あの観覧車を思い出す。
エビスビールには悪いけど、
まだカラスの演奏のイメージは
ぼくの中では「第三の男」が
彼女の観覧車の分だけ勝っている。(松永良平)