Anita Kerr Singers / Bert Kaempfert Turns Us On
ハイファイ大江田&松永がセレクトしたCD再発シリーズ「魅惑の女性ヴォーカル・コレクション〜フィンガー・スナッピン・ミュージック篇」から、11月21日にユニバーサルミュージックより発売された5作品について、おととい22日の日記で松永クンがご案内した。
このうち大江田がライナー・ノーツを執筆したテレサ「アニタ・カー・プレゼンツ・テレサ」について、ちょっとメモを残しておきたい。
このアルバムは、90年代のソフト・ロック・ブーム期に脚光を浴びたもの。それもこれもアルバム冒頭に納められた「スプーキィ」がとても素晴らしいことが理由だった。グルーヴィなサウンド、そして清涼でありながら、伸びやかな力強さを感じさせるテレサのボーカルが耳聡いファンの耳を捉え、それ以来、輸入アナログ中古レコード・ショップの店頭に定番の一枚として並べられることとなった。
テレサの本名は、テレサ・ベネットという。彼女が19歳のシンガー・ソングライターであること、そしてテレサがどれほどに才能豊かな女性か、彼女がギターを弾きながら歌う姿を見たときにどれほどにときめいたか、どれほどに美しく女性的なのか、これまで音楽の世界においてこれほどに優れたアーチストの出現はなかったほどだと説くプロデューサー、アニタ・カーのコメントが、オリジナルのアナログ・レコードの裏ジャケットに記されている。リリースは、1969年だ。
このほか本作について、またテレサについて、資料となるものはどこを探しても見当たらない。
そこで思い切ってアニタ・カーのサイトを通して質問のメールを送ってみたところ、アニタ・カー本人から回答のメールが届いた。
テレサからアニタ・カー・シンガーズで歌って欲しいと送られて来たデモテープに感動してアルバム制作を思い立ったこと、アニタ・カーがご主人(RCAスイスのプロモーション担当者だったそう)と結婚するためにアメリカを離れる直前の作品だったということ、盛り上がりを見せつつあった当時のロックに大変な感心を持っていたこと、スイス移住後はテレサとは交流が無かったことなどが綴られていた。
驚きつつもうれしい便りだったのだが、締め切りを過ぎており、ライナー・ノーツには盛り込めなかったのが残念だった。
いずれにしてもアニタ・カーが自らプロデュースした作品に、これほど直裁な表現で賛辞のコメントを記載したレコードは、本作以外に無い。
ささやかながらでも、その作品の背景をプロデューサー本人のコメントによって知ることが出来たこと、そしてかねてからそうに違いないと思っていたのだが、60年代後期に支持を広げ表現を深めつつあったロックについて、アニタ・カーが強い関心を抱いていたことを知ることが出来て、うれしかった。今後にアニタ・カーの作品を聴く際の指針とすることが出来る。
掲題の「Bert Kaempfert Turns Us On」は、ベルト・ケンプフェルトのソングブック・アルバムだ。同じく60年代後期の早い時期、ワーナーに在籍時の作品である。
トム・アルドリーノがこのアルバムでは彼女がベルケンに捧げた「For Bert」を聴くべきだねと、コメントを寄せてくれている。
そういえばアニタ・カーはサイモン&ガーファンクルのソング・ブック・アルバムでも、自らの作品「Music」を収録していたことを思い出した。
これらは、ひとりの作家作品をコレクトする作品集の中において、さりげなく対象とした作家への敬意を表現している。
アニタ・カーの作品に、まだまだ気づくべきものがあることを、トムから教えられた。
同時に、アルバム「アニタ・カー・プレゼンツ・テレサ」と、「Bert Kaempfert Turns Us On」に共通する、制作に於けるアニタ・カーの立ち位置の取り方を見いだせるように感じたのだった。(大江田信)