Bill Evans Trio / Bill Evans At Town Hall
生まれて初めて買ったLPレコードは、ビル・エヴァンスとジム・ホールのデュエット・アルバム、「インターモデュレーション(Intermodulation)」だった。
中学3年か高校1年の頃だったと思う。朝日新聞のレコード紹介欄に書かれた油井正一さんのコメントにひかれて、それだけを理由に買った。ナマイキな奴だったのだ。
初めて買ったアルバムだし、ほかに聞くレコードといってもそれほど持っている訳でもないし、それからしばらくは毎週末の夜をこのレコード共に過ごした。とにかく繰り返し、繰り返し、文字通り盤がすり切れるまで聞いた。
そのうちになんとなくこのアルバムにおけるビル・エヴァンスのフレーズやタイミングの取り方のようなものが頭に入ってきた。ギターのジム・ホールの音の姿も頭に入ってきた。だからといって、ほかのアルバムを聴いて、ビル・エヴァンスだとわかるとか、ジム・ホールだとわかるといった訳でもない。「インターモデュレーション」から聞こえてくる音のそのものが、ぼくの頭の中で有機的な像を結び始めたにすぎないのだが。
以来、それとなくビル・エヴァンスのファンだ。
このアルバムを聞きながら、ぼくの記憶の奥深くにビル・エヴァンスのピアノの音色が眠っていることに気づいた。ああ、あの音だと思い出したのだ。透明にしてグルーミィな色合いのテンション・コードの雰囲気や、ブルース・スケールに密に寄ることのないフレーズの組み立てや、冷静にしてホットな演奏ぶりにふと気持ちが持っていかれる。
寡黙ではないが、多弁でもない。ひっそりとしているようでいて、瞬間の熱風のように聞こえることもある。
なにかに潜り込むような気持ちで、聞いていたいレコード。繰り返し聞いても、初めて聞く驚きと出会うような気がする。(大江田信)