The Old Reliable String Band / Old-Timey Folk Music

Hi-Fi-Record2008-03-15

 トム・ペイリーを中心にしたストリング・バンド。トムは同時期にニュー・ロスト・シティランブラーズのメンバーでもあり、翌63年に名作「New Lost City Ramblers Vol.5」を発表した後に、イギリスに渡る。
 このアルバムを発表した1962年頃は、どうもバンドを掛け持ちしてたらしい。こちらのオールド・リライアブル・ストリングバンドで表明している音楽の方が、よりトムが好む素朴なフォーク・ミュージックに近い。有名なのはニュー・ロスト・シティランブラーズの方なのだが、そこで実現できなかった自分の音楽をこちらのバンドで果たそうとしていように見受ける。




 ロンドンで暮らしを始めてからは、たしか数学の先生をしていたはずだ。それでも傍らの音楽はやめなかった。イギリスでもぽつん、ぽつんとアルバムを発表している。
 70年代初頭に僕がロンドンを旅行した時に、運良くTime Out誌でスケジュールを見つけて、彼のライヴを訪ねた。たどり着いたところは、まるで町の公民館のような会場だった。小さな集会場のような部屋で、トムは集まっている叔母さま達のスクエアダンスの伴奏をしていた。彼はバンジョー・プレイヤーで、それもフレリングやダブルサミングなど、地味な奏法を用いて演奏する。派手にかき鳴らすようなものではなく、音も小さい。スクエアダンスをする叔母さま達の足音に、彼の弾くバンジョーの音色がかき消されんばかりだったことを覚えている。



 ひとしきり演奏が終わった後に、サインをもらいにいった。(東洋からやって来た20歳そこそこの)僕が、トム・ペイリーが誰であるかを知ってその会場に来ていたこと驚きながら、彼は吹き出した汗を吹き拭きサインをくれた。
 落ち着いた雰囲気の人と想像していたのが、実際のところ、せかせかと動き回るノリの軽い人でそれに僕はとても驚いた。



 このレコードを見るたびに、あの日のことを思い出す。
 愛すべき知的なセカセカおじさんの演奏する軽やかなフォーク・ソング。
 さらっとした肌触りが、トム・ペイリーを物語っている気がする。(大江田信)


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