Nick DeCaro And Orchestra ニック・デカロ / Happy Heart

Hi-Fi-Record2008-03-21

 60年代のイージー・リスニング・オーケストラ作品を聴きながら思うこと。

 50年代の末くらいまでに登場したポップス・オーケストラ主宰者の多くは、クラシック出身でストリングスをメインにしたフル・オーケストラ作品を作る。ジャズ出身者の場合は、コンボ+ストリングス的な作りが多いように思う。どうだろうか。そうしたアーチストの音楽は、ことにクラシック出身者の場合は、ロックの時代に呼応するための過剰な感じがしたり、時には乗り遅れ感がみられることもある。


 そうした違和感を思いながらニック・デカロの音楽を聞くいていると、ロックの感覚がすんなりと入り込んでいることに驚く。
 いち早くロスアンジェルスで仕事を始めていたトミー・リピューマの紹介で、ゲイリー・ルイス、ジャッキー・デシャノン、オージェイズといったアーチストたちの仕事を通して、音楽制作の道に入ったからか。1938年クリーヴランド生まれの彼が、60年代前半から積み重ねた修業時代を経て、始めて発表したのが本作だ。30歳を過ぎてのソロ・デビュー作となった。


 ミュージシャンのキャスティングがうまいのか、そもそも彼自身に体に宿っているリズムがロックに呼応するセンスを持っていたのか、ロックの時代の聴衆に向けたイージー・リスニング・アルバムを作ることにうまく成功した。
 このアルバムの感性に立って周囲を見渡すと、たとえば初期A&Mの作品が共振してくるだろう。A&Mって、ロック時代のイージー・リスニングを目したレーベルだったっけ?と、ふと思い返してしまう。


 「I'm Gonna Make You Love Me」の控えめなボーカルが最高だ。今一度、あらためて。(大江田信)


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