Shep Fields シェップ・フィールズ / Rippling Rhythm In Hi-Fi

Hi-Fi-Record2008-05-08

 うがいが苦手だ。
 鼻で呼吸をしながら、15秒間くらいのどの奥に薄めたうがい薬を溜め置くようにと言われ、その通りにしたつもりだったのに、気管支まで水が入ってきて、その瞬間に口から水が飛び出し、そして数分間の咳が続いた。
 呼吸が出来なくなった。涙が出てきた。しばらく洗面台に手を置いて下を向いてうつむいてから、やっとの思いで立ち上がり、顔を拭くティッシュを取りに行った。


 子供の頃の思い出話ではなくて。ついさっきの出来事。
 お客様が見えなかったから良いものの、もしも店内にだれか入ってきたら、びっくりした事だろうと思うと、これまた情けなくなった。


 うがいは嫌だ、なんてことだと思いながら店内を見渡していたら、目が合ったのが、このレコードだった。
 脳裏にあったのは、スパイク・ジョーンズのウィリアムテル序曲。たしかあの曲の真ん中当たりに、うがいの音が入っていたのではなかったっけ。
 いやいや、せめて水遊びは、水の中にストローつっこんでクプクプさせるくらいにしましょうよ、とでも言うようにシェップ・フィールズ氏がこちらを向き、軽くしかめっ面をして手招きしている。


 彼のオーケストラの演奏は、このクプクプ音から始まる。のどかな感じというか、水中音楽みたいな非現実感に魅惑されるというか、不思議な感じ。


 ストローでジュースを飲むのは苦手ではありません。ストローで飲む方が、ジュースが美味しいことがあることも、知っています。まさか何かの拍子にストローの中のジュースがのど元から胸に逆流してきたらどうしようなんて、これまで一度も考えたことはありません。あっ、いや、あるかもしれません、はい。(大江田 信)


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