Peter Nero ピーター・ネロ / New Piano In Town
昨年の春先から、アメリカと日本の間での郵便局扱いの船便が中止された。
アメリカから日本にレコードを送る際に、多少の時間がかかってもいい場合は安い船便を利用していたのが、それ以来は郵便航空便か、日通などの運送会社の便を利用するしか手が無くなった。
まだ郵便局の窓口から船便を送ることが出来た頃のこと。とある田舎の郵便局に荷物を持ち込んだ。局内はガラガラで、窓口の女性職員も手持ち無沙汰にして人待ち顔だった。
「荷物は航空便、それとも船便?」と聞かれた。この「船便」にあたる表現を、彼女は「By Boat?」と尋ねた。
「By Boat」とボクは答えた。
すると彼女が歌を歌いだした。それが「中国行きのスローボート」だった。
中国行きの船にキミと乗り込めば、きっとキミはボクのことを好きなるという内容の歌だ。ついつられてぼくも歌った。「Slow Boat to China.....」。
うたを歌いながら、彼女はクスクスと笑い出した。
あまりに時間がかかるので、もうきっと船を降りることをあきらめちゃうし、やがてボクのよさに気づくのさと、とでもいった底意があるうたなのかもしれない。彼女が邪気無く笑う様に、このうたの歌われ方の一つを見た思いになった。
ピーター・ネロの「中国行きのスローボート」。チャイニーズ・エキゾなイントロに続いて、ゆったりと始まったかと思うと、途中からせかせかとしたピアノが動き回る展開に。そういえばこの曲、遅いスピードで中国に向かう船上のカップルを描く歌のわりに、こうして忙しい感じに編曲されている例が多いようにも思う。
船の中で彼女の気を引くために、彼は忙しく動き回ることになるからかな?(大江田 信)