Rooftop Singers ルーフトップ・シンガーズ / Walk Right In

Hi-Fi-Record2008-06-04

 1ヵ月で有名人になり、その顛末を手記にすればギャラが10万ドル。親友に妻を盗られた中年コラムニストのトムはこのオファーを受け、人気女優のアレクサンドラに目的を明かしたうえでデートを申し込んだところ、思いがけない事態が始まってしまう。オーストラリア出身の女流作家、シャロン・クラムが書いた軽妙なストーリーのエンターテイメント小説「名声のゆくえ」を読んでいたら、「トム・キャット」という言葉に出会った。



 主人公がゴシップ専門の新聞から「Tom Cat」と揶揄される。これを訳者は「女たらし」と訳して、「トム・キャット」とルビを振っていた。主人公の名前がトムであることに重ね合わせた作者のユーモアなのかなと思って、辞書を引いてみると、「Tom Cat」とは「雄猫のこと、女の尻を追い回す男」とある。なるほど、なぜかトムなのですね。Peepingするのもトムだし。
 その後に続く文章では猫好きの人がちょっと眉をひそめるかねないレトリックで、トムの女たらし振りをああでもない、こうでもないと想像たくましくしている。



 思わず本を閉じて辞書をひいたのは、「ウォーク・ライト・イン」に続くルーフ・トップ・シンガーズのセカンド・シングルが「トム・キャット」だったことを記憶していたからだ。この曲は、彼らのファースト・アルバムに、全米No.1ヒット「ウォーク・ライト・イン」と並ぶように収録されている。
 トム・キャットが街に出れば、近所の猫たちはみな叫び始めるという内容だ。なにしろ毎晩、新たなターゲットを見いだしているというのだから、なかなかに相当な強者だ。なるほど猫の話とは思えない。



 お行儀のいい上品で品行方正な音楽と思われがちなフォークだが、ルーフトップ・シンガーズは、さにあらず。オトナのグループだったことを示す一端だ。(大江田信)


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