Les Paul レス・ポール / Tenessee Waltz / Little Raock Getaway

Hi-Fi-Record2008-07-09

 先日の買付けの際に、レス・ポールのDVDを買って来た。
 2005年 6月9日に90歳を迎えた彼を祝すオムニバス・アルバム「レスポール・アンド・フレンズ」の制作風景や、レギュラーとしているNYのジャズ・クラブ、イリディウムでのライヴの様子のほか、実際に彼がレコーディングに使っていたプライベート・スタジオ、テープレコーダーや楽器など、ありとあらゆる珍しい写真やフィルムを盛り込んで、その生涯と音楽を讃える内容だった。3番目の妻でもあったメアリー・フォードとの出会い、そして別れのプロセスには踏み込んだコメントが添えられているように聞こえたのだが、どうなのだろう。


 リチャード・カーペンターフィル・ラモーン、アル・シュミッット、ポール・マッカートニー、バッキィ・ピザレリボニー・レイット、ケイ・スター、アーメット・アーディガンなど、ありとあらゆる人々が彼の音楽を賞賛する。確かアル・シュミットだったと思うが、レス・ポールの音楽はギター1本によるオーケストラだとする意見に、ぼくは思わず拍手をした。



 実に興味深いDVDだ。ラジオの時代の音楽、ジャズがいかに楽しく面白い音楽だったか、シカゴの街のサウス・サイドの猥雑さ、ジャズのコード楽器におけるバンジョーとギターの役割の交代について、ジャズ・ギターの歴史におけるジャンゴ・ラインハルトチャーリー・クリスチャンが残した影響の大きさと深さ、ロスにおけるビング・クロスビーの影響の大きさ、メアリー・フォードと共にキッチンから廊下、風呂場まで用いて行ったレコーディングの仔細、グレン・グールドの方法にも似た独自のレコーディングのユニークさ、マイルス・デイヴィスに与えた助言など、ありとあらゆる事を思わず口をぽかんと開けながら眺めた。



 3〜4年ほど前にイリディウムで見たライヴのことを思い出す。
 ライヴの最中には、レスはジョークの言いっぱなしだった。それも下ねたが多いらしい。その種のスラングがわからない僕に、松永君が耳元でいくつか教えてくれた。
 終演後にトイレに向かうと、隣りに立った男性から、「最初はまるでコメディかと思ったぜ。それが、やっぱりギターを弾かせると最高だよなあ」と話しかけられた。「まったくその通りさ」と答えながら、二人で用を足した。


 この夜の忘れられないレスのジョークのひとつ。
 メンバーは、全員が男性だった。
 「この間まで、うちのバンドには女性のベーシストがいたんだ。その時に我々は、レス・ボール・トリオって呼んでたんだぜ」。一瞬静まって、それからどっと笑いが起きた。客席の妙齢の女性たちも大笑い。彼の年の功だ。
 DVDには、その女性ベーシストが映っていた。まだうら若く可憐な風情の彼女に、レスはなにやら声をかけている。おそらくネタ攻撃を仕掛けているのだろう。彼女は、黙ったまま困ったように身をよじっていた。


 このときレス・ポール、90歳。
 なにもかもが、健在だ。(大江田信)


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