Mike Lane マイク・レイン / Love Took Me Somewhere

Hi-Fi-Record2008-09-05

 冒頭に収録されている「Tacoma」の中で、彼は「アメリカの街は、決して声高ではないけれども、街ごとにピュアな歌を歌っている」とつぶやく。
 調べてみるとTacomaという市は、アメリカに7つほどある。西海岸のロサンジェルスとシカゴ周辺にある彼の足跡のことを思うと、どうやらここで歌われているのは、ワシントン州シアトルの南のあるタコマ市のことだろうと思う。


 ワシントン州タコマは、一年中、空がどんよりと重く、もちろん雨が多く、そして犯罪も多いことから、住みたく無い街を問う近年のアンケート上位に必ずといっていいほど顔を出す。そんなことを思い出しながら、レコードに針を落とした。そして、彼が歌うTacomaの街への思いに、思わず不意打ちをくらった。


 根っこにはフォークの感性があるのだろう。アメリカを放浪し旅したかつてのホーボーへの追慕があるのかもしれない。それとも、問うてみれば、ボクは80年代のホーボーなのさという答えが返ってくるのだろうか。旅の時間のなかに身を置くことで見えてくる風景が、ジャジィでフォーキーなサウンドとさらっとしたボーカルと共に歌われる。どこかしら、買付の旅を繰り返しているボクたちの視線と似ている。


 思いがけずに出会った響き。こんな歌があればいいななと、なんとなく思い描いていた気持ちが歌になって目前に現れたような。
 買付の幸せを感じる一瞬だ。(大江田信)



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