Johnny Russo & Friends / Swingin’ Happy

Hi-Fi-Record2008-10-23

 「エミールと探偵たち」や「点子ちゃんとアントン」などの児童文学で知られるエーリッヒ・ケストナーが、「人生処方詩集」という詩集を書き残している。
 この詩集にはユニークな目次が付いていて、そこには例えば「孤独に耐えられなくなったら」や「自信がぐらついたら」、「同時代の人間に腹が立ったら」、「知ったかぶりをするやつがいたら」などの項目に応じて、参照すべき詩が書かれたページ数が記してある。「金が少ししかなかったら」、26ページに書かれた「頭のうしろは誰も覗かない」という詩を読むようにという具合だ。
 ページのタイトルには、「用法」とある。
 この「用法」を眺めているだけでも、充分に詩を感じる。目次がすでに詩になっている詩集なのだ。



 ケストナーが書いた序文もおもしろい。「淋しさとか、失望」などの心の悩みをやわらげるのは、「ユーモア、憤怒、無関心、皮肉、瞑想、それから誇張だ。これらは解毒剤」なのだという。彼の詩集は「精神生活の治療に捧げられた一つの便覧」なのだとも記す。
 



 もちろん「恋愛が決裂したら」という、お定まりの人生の辛苦のひとつに対して用意された詩「男声のためのホテルでの独唱」もある。これをぼくは気に入っている。
 ケストナーは、不幸な男にこう言わせる。
 「しかし女があやまちを犯すためには はたから邪魔をしてはならないのだ 世界はひろい 君はその中で迷子になる ただ願わくば あまり迷子になりすぎないように・・・・ おれは しかし 今夜はよっぱらって 君が幸福になるように いささか祈ろう」。

 


 「秋になったら」という項目もある。
 「とにかく散歩に出たまえ!」とケストナーは薦める。喧噪の中に一人を感じながら街を歩くように、と言う。


 そんな気分にはどんな曲が似合う?
 ぼくの耳元に響くのは、例えばこんな曲だ。
 「日の当たる道を歩こう」と歌う「On The Sunny Side Of The Street」を、ジョニー・ラッソのヴォーカルで。
 ちょっと酔っぱらい気味で、ふらつき気味のジョニー。離婚の時は、それはつらかったさと急に真面目な顔になったジョニー。いつもお金の苦労が絶えないジョニー。
 「人生は捨てたもんじゃないさ」と歌う声に、そうかもしれないね、ジョニー、とうなずきながら、街歩きのあとのビールを飲みたい。(大江田信)



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