Jesse Fuller / Jazz, Folk Songs, Spirituals And Blues
マーク・ノップラーがかつての旧友達とセッション的につくったバンド、ノッティング・ヒルビリーズは、素朴なブルースやカントリー、フォークなどのアメリカ音楽をレイジーな雰囲気と渋い味わいで表現していた。セッション的な発想だったようで、アルバム一枚と数回のライヴ出演を残して、活動を休止しているようなのが、とても残念だ。
収録曲のひとつに「Workin' On The Railroad」がある。確かメンバーのスティーヴン・フィリップスがソロ・ヴォーカルを取っていたはず。この歌が物語る風景がよくて、好きだった。鉄道労働者の日常の辛苦の様が、さらっと歌われる。
ノッティング・ヒルビリーズ版では「Workin' On The Railroad」となっているが、下敷きになっているというか、元々は「Take This Hammer」というフォーク・ソングだ。
この曲には様々な歌詞のヴァージョンがあるが、永くノッティング・ヒルビリーズ版と同じものを聞いたことが無かった。だとするならば、メンバーが歌詞を書いたのかなと思っていたら、このジェシ・フラーのアルバムを聴いて、謎が解けた。
彼ら(おそらくはスティーヴン・フィリップス)は、間違いなくこのアルバムを聴いていたのだ。ふたつを聞き比べたら、歌詞が同じだった。
聞き進むうちに気づくのは、ジェシの歌い方のひょうひょうとした雰囲気もまた、ノッティング・ヒルビリーズ版とよく似ていることだ。ヒルビリーズの古くて新しいサウンドには、ジェシ・フラーの恥じらうように笑う顔が映っている。とても気持ちが和む。(大江田信)