Jimmy Webb ジミー・ウェッブ / Letters

Hi-Fi-Record2009-01-07

 グレン・キャンベルによってヒットした「ガルベストン」については、いちど触れたことがある。
 こんな内容の歌だ。

 
 主人公は、目前で砲弾が爆発(flashing)しているのを見つつ、手に持つ銃砲の手入れをしながら、生まれ故郷のテキサス州ガルベストンを思い起こしている。
 彼は、自分の帰りを待っていてくれるはずの女の子のことを思っている。そして「I am so afraid of dying」とつぶやく。


 哀しくて、つらい歌だ。ヒットした1969年当時、この歌を聴いたアメリカ人の誰もが、主人公をベトナム兵とすぐにわかったことだろう。
 

 グレン・キャンベルの歌声はいかにも楽天的で、この歌の意味する所とそぐわない気がする。歌の発せられている視点が、客観的に過ぎる。
 ふと店内で流れていた耳馴染みのないヴァージョンに射抜かれたようになり、誰が歌っているのか尋ねたら、なんと作者のジム・ウェッブ版だという。心の内をのぞき込むような内省的で誠実な表現。不安げな気持ちの主人公に、なりきっている。シンガー・ソングライターの歌唱の発想なのだろう。


 同アルバムに収録された「Love Hurts」のカヴァーも、とてもいい。ぼくはエヴァリー・ブラザーズ版ではなく、ロイ・オービソンの歌唱を思い出したのだが、ということはロイ・オービソンの歌唱にもジム・ウェッブと同様の体質が潜んでいるということなのかもしれない。とすると、ぼくがロイ・オービソンを好きな理由もおのずと説明が付くというものだが。
 
 うたが発せられる場所が、ポピュラー・シンガーとシンガー・ソングライターとでは、少し違う。
 広がりをはらむポピュラー・シンガーと、心の鏡のようにして歌を紡ぐシンガー・ソングライターと。


 ジム・ウェッブの歌う「ガルベストン」を聴く事で、この歌が収まるべきところが見つかった気がした。
 「Letters」。とても良いタイトルのアルバムだ。(大江田信)