Tony Teachey トニー・ティーチェイ / Dreams Are Forever
不思議なもので、カバー曲がオリジナルよりもかえって本人の依って立つところを明らかにすることがある。
人知れずリリースされていた秘宝のようなSSWアイテムを好むファンたちは、カバー曲の収録には、やや腰が引けるというか、躊躇する気持ちになる。"秘められた"感が減じるというか、作品に俗っぽさが加わることになるというか。
それはそれでよくわかるのだが、実はそのカバーがたまらなくいいということもある。
トニー・ティーチェイの場合は、どうなるのだろう。
アルバムを聴き進むと、終曲のひとつまえに「ミスター・ボージャングル」が収録されている。
「ミスター・ボージャングル」が始まると、ここにいたるまでに聞いて来た彼の作品や歌声が持っていた感じと、すこし違う時間が流れ始めることに気づく。世界がくっきりしてくる。
決して言葉数の多くはない歌詞と、ゆらめくように瞑想的にゆったりと進んで来たメロディの運び具合に比べ、流れる時間に具体的な感じが加わったように聞こえる。
もしかすると、トニーが音楽を始めるきっかけになった曲なのかな、と思う。あるいは、過程にあった彼にある種の影響を与えた曲とか。
アルバムを聴き終えると、「ミスター・ボージャングル」が入っていたか、入っていなかったかで、随分と全体の印象が違ったものになったろうと気づかされる。
悠然たる広がり。おだやかな浮遊。そんな自作品の持つ固有の質感が、「ミスター・ボージャングル」によって改めて明らかにされるからだ。
カバー曲を目印にして、見知らぬシンガー・ソングライターのアルバムを聞いてみる、ということ。(大江田信)