Tramp トランプ / Put A Record On

Hi-Fi-Record2009-01-20

レコードを大音量で聴きながら
珈琲を飲んだり
酔ってがやがやと騒いだりする。


ロック喫茶とか、
ロックバーとか、
クラブとか、
まあ何でも呼び名はかまわないのだが、
そういう領域に生まれて初めて足を踏み込んだのは
大学一年生の春。


新宿にあった
“転がる石”を英語にした有名なお店だった。


ここまで爆音でレコードが鳴るのを聴いたのも初めてだったし、
エアギターというものを
ひとが狂ったようにしている姿を見るのも初めてだった。


ウブというより
ぼくは完全におじけづいていたと思う。


これだけ“ロック”という言葉の意味が多様化分散化した現在でも
あの暗くて熱くて意味も無く狂ったあの空間は
ロックのひとつの典型として差し出せるだろう。


ロック好きの先輩に連れられていったこともあり、
その後も何度か
その店には通った。


夜一時くらいになると
店長がブースに座り、
一曲目にかけるのは
ステッペン・ウルフの「ボーン・トゥ・ビー・ワイルド」。


冗談みたいな光景を
真実だと信じさせるには
音量も含めたエネルギーの大量放射が一番なのだと
そのとき知った。


その先輩が卒業した後、
ぼくは大学のそばにあった
渋いシンガーソングライターのファーストネームをいただいた
お店に通うようになった。


そのお店で
トニー・コジネクやジョン・サイモンを
アナログ盤で
教えてもらったことは今でも感謝している。


女主人がそこでぼくに使った魔法は
大音量ではなく
ほどよいヴォリュームと
“ただ酒”だった。


その恩をちゃんと返せないままになってしまったのが
今でも残念だ。


このアルバムのジャケとタイトルで
思い出すのはそんなこと。


それってぼくだけだろうか。(松永良平


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