Norma Tanega ノーマ・タネガ / Walkin’ My Cat Named Dog
ニューヨークの黒人女性シンガーソングライター、
ノーマ・タネガが生涯に唯一発表したアルバム。
歌声に
吐く息の白さと
それでも少し暖かくなってきた季節の
かすかなぬくもりを感じるこのアルバム、
季節は今ごろを想定していたんじゃないかと
聴くたびに思う。
だからこの時期に
お店に置いておくことができるのは
ぼくにとってはうれしいこと。
もちろん、
売れたらもっとうれしいですけど。
このアルバムについては
去年の11月に大江田さんが一度書いている。
収録曲の「ヘイ・ガール」に
レッドベリー〜ノーマ・タネガ〜カート・コバーンの連鎖を
発見したというお話。
それは慧眼として、
ぼくがそのときもうひとつ思い当たったのは、
ひとつのメロディが歌詞を変えることで
別の曲として時代ごとに生まれ変わっていくことを
許容するアメリカ人たちのおもしろさだ。
アメリカで
「曲が良い」とか
「この曲には重要な意味がある」と表現されるとき、
往々にしてそれは
日本人が考える“曲=メロディ”優先ではなく、
“曲=歌詞”優先という発想に立脚している。
欧米では高く評価されていて
日本では今ひとつ真価が理解されない
そういうタイプのアーティストに
実はこの手はすごく多い。
それに
この発想は
ヒップホップ=ラップ的な文化の成り立ちにも
実はすごく深いところでかかわっている。
歌詞をもっと読んだほうがいい、とか
メロディ主義だから日本には独自の洋楽文化が根付いた、とか、
型通りのことを言いたいわけじゃない。
ただ、
言葉について
もっと音楽的に考えたいなという個人的な問題は
喉に刺さった小骨のようにずっと
やけに引っかかっているのだ(またいつかに、つづく)。
(松永良平)